沈まない朝

朝日は、一度も昇らないまま研究員の机を照らしていた。

北極圏の観測基地で、通信担当の研究員が死んでいた。窓の外には白い平原と低い太陽。食堂にはシリアルとコーヒーが並び、交代勤務を終えた者たちが「おはよう」と席へ着いていた。机の脇には夕食用の缶詰が開き、窓辺の方位磁針は太陽の方向を北と示していた。

発見時の壁時計は十二時十八分だった。基地長は、昼前の作業交代中に事件が起きたと判断した。被害者の端末からは、午前十一時五十分に救難信号が送られている。

疑われた気象担当は、正午まで氷原の観測塔にいた。位置発信機も記録を残している。通信担当と対立していた医療担当は、午前中ずっと診療室で遠隔会議に参加していた。

通信担当の手袋には、診療室で使う消毒薬の匂いが残っていた。医療担当は前日の検診で触れたのだろうと説明した。また、通信卓の非常鍵には新しい爪痕があり、誰かが急いで取り外したように見えた。それでも基地長は、会議中の人物を疑う理由はないと言った。基地内の時計が二種類あることも、誰も問題にしなかった。

机の脇には、昨夜の夕食用だったはずの缶詰が開いていた。窓辺の方位磁針は、太陽の方向を北と示していた。基地長は磁気の乱れだろうと言ったが、同じ方位を屋外の標識も示している。

さらに、救難信号の日付は前日ではなく当日になったばかりだった。画面の隅には「00:18」と二十四時間表示が残っている。壁時計だけが十二時間表示だった。

その季節、基地では太陽が沈まない。低い光も朝日とは限らず、食事名も交代勤務に合わせて決められる。シリアルを食べていた者たちにとっては勤務の始まりでも、基地の時刻は真夜中だった。

壁時計の十二時十八分は正午ではなく午前零時十八分。医療担当の「午前中の会議」は、事件の十時間後に始まる予定だった。

遠隔会議の録画予約を見た刑事役の保安員は、診療室の扉を開けた。床には、被害者の端末から抜かれた通信鍵が落ちていた。

沈まない朝は、朝ではない。太陽が夜を隠したため、真夜中にだけ空いていたアリバイまで明るく見えていた。