沈黙を賛成にした夜

薄羽ソウジの発言欄が、団長権限で封じられた。

《全員一致除名》

対象者を含む在籍メンバー全員の賛成で成立します。

投票不能者は賛成にも反対にも数えません。

「反論しないなら賛成だな」

団長は笑い、ソウジの除名投票を開始した。彼は団長がレイド報酬を横流しした証拠を見つけ、会議で追及しようとしていた。

仲間の画面には[賛成]しか出ていない。反対を押せば次に自分が狙われる。票は一つずつ埋まり、残るのはソウジだけ。

彼の窓にはボタンが表示されない。発言禁止と同時に、投票権まで停止されている。

団長が宣言する。

「全員一致だ」

《投票済み:十九》

《必要票:二十》

除名は成立しない。

「対象の票など要るものか!」

団長はソウジを一度ギルドから外し、対象者でなくしてから投票を完了させようとする。だが除名操作そのものに全員一致が必要だ。円環に入った権限窓がエラーを吐く。

その間に、ソウジは発言ではなくアイテム共有を使った。横流し契約書を会議卓へ置く。文書を読むことは、発言禁止で止められない。

仲間の賛成票が一つずつ取り消される。団長は全員を黙らせようと権限を連打し、投票不能者が増えていく。必要票は減らない。賛成数だけがゼロへ近づく。

最後に発言できるのは団長一人となった。

会議卓の管理石が、彼へ別の投票を出す。

[発言不能者を同意扱いした役職者を解任する]

今度は対象者本人の票を必要としない。権限乱用の自動処分だからだ。

《除名議案:不成立》

《有効な全員一致:確認できず》

解任された団長は「誰も反対しなかった」と最後まで繰り返した。実際、声を出せた者の多くも恐れて黙っていた。

ソウジは彼らを責めず、次の会議で匿名の反対欄を設けた。ただし匿名を利用した告発には証拠を添える。沈黙へ勝手な意味を与えないことと、言葉だけで誰かを裁かないことを両立させるためだ。

横流し契約書には、幹部数名の署名もあった。全員一致を要求した組織ほど、裏では少人数だけで決めていた。

《沈黙の意味を訂正――声を奪われた者は賛成したのではなく、投票へ参加させてもらえなかった者です》