流出写真の見えない署名
人気歌手の新衣装発表前日、スタイリストの柊木翠は、写真を週刊誌へ売った犯人として契約解除を告げられた。
「匿名アカウントの送信元は、君の自宅付近だ」
制作統括の薊野敦紀が、流出写真を会議室のスクリーンへ映す。
「衣装に触れられたのも君だけ。注目を浴びたくて、発売前の情報を売ったんだろう」
翠の鞄からは記者の名刺まで出てきた。薊野は調査報告へ署名し、事務所社長に向かって「刑事告訴まで私に任せてください」と言った。
翠は、スクリーンの写真を拡大してもらった。
「配布した確認写真には、一人ずつ違う透かしを入れました」
見た目には同じでも、縫い目の影へ受取人番号が埋め込まれている。流出経路を追うため、翠が提案し、薊野が「無意味な小細工だ」と笑いながら承認した仕組みだ。
解析すると、左袖の影から番号が出た。
〈AZN―01〉
薊野へ送った一枚だけに入る番号だった。
「翠が私の写真を盗んだ!」
「では、送信予約も盗まれたのでしょうか」
社長が匿名アカウントの管理画面を開く。週刊誌へのメールは、薊野の業務端末から三日前に予約されていた。本文にはこうある。
〈スタイリストの鞄へ名刺を入れました。発表会前に処分すれば、衣装部門を私の会社へ移せます〉
薊野は送信後に消すつもりだった。だが写真が公開される時刻まで証拠として残すため、予約メールを自分で保存していた。しかも直前の調査報告で、その流出写真を「加工されていない原本」と保証している。
歌手は翠の首から外されかけたスタッフ証を戻した。
社長が薊野の契約書へ赤い印を押す。
記者の名刺も、薊野が以前取材を受けた際に裏へ書いた控え番号が残っていた。記者本人は、翠とは会ったこともないと回答している。薊野は彼女を孤立させるため、証拠を多く置くほど説得力が増すと思っていた。だが一つひとつに、自分の受取番号、端末、筆跡を残していた。
「薊野敦紀。制作統括契約を即時解除し、業務妨害と証拠捏造で刑事告訴する」