海より先に飛ぶ四十箱

機械部品の商社営業・鷲尾理人は、午後十時に海外工場から呼び出された。

「交換部品二百箱が届かない。三日後に生産が止まる」

現地の購買責任者は怒鳴り、航空便で全量を送れと要求した。費用は受注額を超える。

理人は輸送会社を責める前に契約書を開いた。条件はFOB。自社の責任は国内港で船へ載せるまでで、その後の船便は顧客側が手配していた。ところが購買担当は運賃込みだと思い込み、誰も本船を予約していなかった。

責任の所在を指摘すれば、商社は損をせずに済む。しかし部品が来なければ工場は止まり、次の受注も消える。

国内倉庫へ確認すると、二百箱は一つの大箱にまとめて封をされていた。理人は倉庫員に全量を空港へ運ばせず、その場で四十箱だけを抜き、残りの封をやり直すよう頼んだ。焦ると、必要量を数える前に全部が高い便へ乗る。

理人は必要数を聞いた。一日に使うのは十二箱。二百箱すべてを飛ばす必要はない。航空便で四十箱だけ送り、残りは翌朝の船へ積む。四十箱あれば、船が着くまでの生産をつなげる。

もう一つ問題があった。支払いに使うL/Cの期限が、船の到着前に切れる。理人は銀行担当を夜間窓口で捕まえ、期限延長の文面を作らせた。航空便分だけ別請求にすると書類が増えて止まるため、契約数量は変えず、輸送費の差額を次回注文で調整する案にした。

為替はその夜、大きく動いていた。全額を今すぐ換えると顧客の負担が膨らむ。理人は未決済分だけ為替予約を分け、輸送の確定した分から固定した。

午前一時、四十箱を載せた車が空港へ出た。購買責任者は画面越しに頭を下げた。

「こちらの手配ミスだった」

「止まる前に分かったなら、まだ手配です」

理人は責任追及のメールを保存し、送信しなかった。代わりに、次回から船名を双方で確認する欄を発注書へ加えた。

窓の外が白み始めたころ、東京本社が開いた。

最初の着信は、別の国からの値下げ交渉だった。理人は時差表を閉じずに応答した。