消された足音
ヴィアンの補助魔法は、仲間の足音を消すだけだった。
鎧の擦れる音を薄くし、息の乱れを森の風へ混ぜる。敵へ傷を与えないため、成果板には0%と表示された。
隊長タルカンは、狩りの前でその値を皆へ見せた。
「音を怖がる者は戦士ではない。堂々と歩けば魔物の方が逃げる」
ヴィアンは隊から外され、契約紋を消された。
残った仲間は、歌いながら森へ入った。勇気を示すため盾を打ち鳴らし、枝を踏み折る。しばらく魔物は現れず、タルカンは自分が正しかったと笑った。
現れなかったのではない。集まっていた。
木々の間から牙が並び、背後の茂みからも目が光る。音を追う群れは、逃げ道まで囲んでいた。
別の隊の案内をしていたヴィアンは、遠くから盾の音を聞いた。彼の新しい仲間は関わるなと言った。追放した者を助ければ、また利用されるだけだと。
ヴィアンは頷き、それでも森へ術を広げた。
音が消える。
魔物たちは獲物を見失い、互いの足音へ飛びかかった。ヴィアンは旧仲間へ姿を見せず、静かな道だけを作る。最後尾の者が森を出たところで、術を解いた。
新しい隊の斥候は、ヴィアンの術が切れるまで黙って待っていた。目立たない魔法だと笑わず、森の静けさへ耳を澄ませる。その姿を見て、旧仲間たちは自分たちが守られていた間さえ騒ぎ続けていたことを恥じた。働きを尊ぶ態度は、報酬より先に見えるのだ。
タルカンは助かった後も、魔物が勝手に争ったと言い張った。
すると契約を切られたはずの成果板が、森全体の音を再生した。過去の探索でも群れは近くにいた。ただ、ヴィアンの術で気づかず通り過ぎていたのだ。敵に会わなかった遠征は、何もしていない遠征ではなかった。
ヴィアンの新しい隊が迎えに来る。旧仲間たちは戻ってほしいと口々に頼んだ。
彼は首を横へ振った。
「静かさを弱さと呼ばない人たちと進みます」
《隠密貢献・真正算定》
申告値:0% → 真値:98%
働き順位:首位 ヴィアン
役割更新:消音補助 → 侵入指揮官
旧隊長タルカン:行動許可制