火山へ冬を配達する氷運び
氷運びエスナフは、夏になるたび王宮の裏口から入れられた。
北山から切り出した氷を藁で包み、菓子工房や貴族の酒蔵へ届ける。冷たい飲み物を褒める者はいても、炎天下を歩いた彼女へ礼を言う者はいない。溶ければ賃金から引かれた。
授かった技能も贅沢品向けだと思われていた。
【氷送:一塊の氷に含まれる冷たさを、失わず指定地点へ届ける。塊の大きさは問わない】
王宮料理長は、小さな角氷を指して「大きさを問わないなら楽な商売だ」と笑った。
夏至祭の日、南火山の守護精霊が怒り、山頂から溶岩の腕を伸ばした。王が祭礼費を惜しみ、封印用の雪晶を偽物へ替えていたためだ。溶岩は川へ入り、蒸気雲が村々を覆う。三刻後には王都の水源まで煮える。
氷魔術師は冷却陣を張ったが、火山の熱に触れる前に霧となった。王は責任を隠し、氷倉の民間用氷をすべて王城へ運べと命じる。
エスナフは逆に、北山の氷河へ向かった。
「氷河を切る道具も時間もない!」
追ってきた役人が叫ぶ。
「切る必要はありません。あれは一塊です」
千年分の雪が圧され、谷から谷までつながった氷河は、地面の下でも一つだった。エスナフは運搬札を氷面へ置き、届け先に南火山の火口を記す。
技能を一度使うと、氷河は動かなかった。代わりに、その内部へ積もった冬の冷たさだけが青い光となり、彼女の背負い縄へ集まった。
エスナフが一歩踏み出すたび、青い道が空を南へ走る。冷たさは失われず、途中の畑も人も凍らせない。そして火口へ届いた瞬間だけ、千年分の冬となって解かれた。
赤い山が白く息を吐いた。溶岩の腕は黒曜石となって止まり、煮えていた川から湯気が消える。守護精霊の額には、本物の雪晶と同じ青い封印が戻った。
王の偽造雪晶だけが、熱で金塗装を剥がして祭壇に残った。
川辺の人々は冷えた水を両手ですくい、王宮へ運ばれるはずだった氷を病人へ分けた。役人が運搬札を没収しようとすると、守護精霊の白い息がその偽造命令だけを凍らせる。エスナフの背負い縄には、青い雪晶が一つ結ばれた。
《職業が【氷運び】から【極冬運搬王】へ書き換わりました》