炭紙の三票
相楽晴臣は、三枚の投票用紙を重ねた。
間に、卓上の黒い複写紙を二枚挟む。そして一番上へ、間宮颯太の名前を強く書いた。
布施川杏が椅子から立つ。
「私の用紙まで勝手に書いたの?」
「そう。三人分、同じ票にした」
規則は一行。
〈裏切り者の氏名が記された各席の投票用紙に対応する参加者を解放する〉
開始時、颯太は自分の役職札を素早く伏せた。しかし磨かれた投票箱の側面に、黒い文字が一瞬だけ映った。〈裏切り者〉。晴臣はそれを見ていた。
問題は、杏が晴臣を疑い、颯太が杏を疑うよう誘導していたことだ。正解を教えても、裏切り者本人が否定すれば票は割れる。
そこで晴臣は、説明書の下敷きとして置かれた複写紙を使った。
『投票は各自が行うものです』
「規則には、記入者の指定がない。各席の用紙に正しい氏名があればいい」
『他人の意思を無視しています』
「意思を尊重するゲームなら、首輪で投票を強制しないことだね」
颯太が三枚を奪おうとする。だが晴臣は書き終えた瞬間、それぞれの投入口へ滑らせていた。用紙には席番号の透かしがあり、誰が書いたかではなく、どの席へ配られた紙かだけを装置が識別する。
残り十五秒。杏が小声で訊く。
「本当に颯太なの?」
晴臣は投票箱の銀面を指した。そこには今も、颯太の役職札の端が反射している。杏の表情が変わった。
ゼロ。
三枚が順に読み取られる。
〈一番席、間宮颯太――正解〉
〈二番席、間宮颯太――正解〉
〈三番席、間宮颯太――正解〉
三つの首輪が外れた。裏切り者本人である颯太の席の用紙にも、自分の名が複写されている。「対応する参加者」には彼も含まれる。
『裏切り者まで救う理由はありません』
「救うかどうかを決めたのは、僕じゃなく文面だ」
晴臣は黒く汚れた指を開いた。
「あなたは筆跡で仲間割れさせたかった。でも、紙を三枚重ねれば、筆跡は一つで足りる」
三人が出口へ向かう後ろで、複写紙だけが真っ黒な影のように卓へ残った。