無敵の外套を一針でほどく
《ファッション配信者エレナの衣装係が前線?》
《縫製師に聖鎧公は傷つけられない》
《コラボ衣装の宣伝なら安全層でやれ》
人気ファッション攻略者エレナ・ローズの細剣が、聖鎧公の外套に弾かれた。刺突も魔法も、金糸の布へ触れた瞬間に「似合わない」と判定され、消えていく。
同行する縫製師・志摩衣織は、糸巻きを指で回した。
「エレナさん、次は正面から一番華やかな技を」
「私に地味な注文は似合わないものね」
エレナは笑い、薔薇の光を幾重にも咲かせる。聖鎧公の外套が大きく広がり、すべての光を受け止めようとした。
《外套は攻撃の美しさを奪って防御力へ変換》
《派手な技ほど逆効果、もう防御値が上限突破》
《衣織、背中側へ回ったけど縫い目すらないぞ》
衣織は背後から外套を追い、光を吸うたび一瞬だけ震える裾を見た。エレナの技が派手であるほど、布は完成品を誇示するため大きく広がる。その一瞬にだけ、内側へ押し込まれた始末糸が顔を出した。衣織は空中に浮いた金糸を一本つまみ、自分の針へ通す。そして、外套の裾へ一度だけ縫い返した。
「仮縫いを、本縫いから外します」
布全体に一本の波が走った。
無敵の外套は、最初の一針まで時間を戻すようにほどけていく。金糸は山となって床へ落ち、聖鎧公は下着姿で立ち尽くした。エレナの薔薇が今度こそ胸当てへ届き、鎧だけを鮮やかに砕く。
「縫い目がなかったのに、どこをほどいたの?」
「完成品に見せるため隠された、作り手の最初の迷いです。服には必ずあります」
《金糸を年代測定、最古の一本だけ材質が違う》
《エレナが外套を最大展開させ、衣織が原点を露出させた》
《衣装係じゃない。無敵装備の製作者より上の仕立師だ》
エレナは落ちた金糸を一束拾い、衣織の首へ即席のリボンとして結んだ。
「次の衣装、あなたの迷いも残して。私が世界一似合う形で着るから」
急上昇一位の切り抜きタイトルが切り替わる。
【エレナ、無敵外套に完敗】から【衣織の一針、神話装備を裸にする】へ。