煙のない焼き台

午後六時、炭火料理店の開店と同時に、焼き台の煙が客席側へ流れた。間宮岳が串を返すたび、白い煙が暖簾をくぐっていく。

客席係は窓を開けようとしたが、外は冷たい雨だった。窓を開ければ一時的に煙は薄くなっても、どこから空気が入り、どこへ抜けるかは制御できない。岳は煙の行き先より、厨房へ入ってくるはずの空気を探した。

「フードを最大にしろ」

店主が風量のつまみに手を伸ばした。岳は先に入口の扉を押した。いつもより重い。厨房の薄い紙は、換気扇ではなく裏口の隙間へ張り付いている。

煙を吸う力が足りないのではない。外から入る空気が足りず、店内が店内の空気が外へ出過ぎていた。ここでフードだけを強くすれば、炭の炎まで横へ引かれ、火の粉が油受けへ落ちる可能性がある。

炭は火を止めるスイッチがない。岳は火の強い部分を中央から外し、油の多い串を先に避難させた。炎が落ち着いてから設備へ触れれば、確認中に火の粉が飛ぶこともない。客席には最初の小鉢を先に出してもらい、焼き物だけを待たせた。

岳は焼き台の炭をならし、いったん串を外した。朝の清掃記録を確認すると、外気側のダンパーを洗うため閉じたまま、戻した印だけが付いていた。彼は店主立ち会いでレバーを開け、入口が軽く動くところまで調整した。

紙をフードの下へかざすと、今度は真上へ吸い寄せられた。焼き台へ串を戻しても、煙は客席へ出ない。岳は最初の二本を廃棄し、煤の付いていない新しい串から焼き直した。客を待たせた時間は三分だった。

「換気を強くすればいいと思ってた」

若い店員が言った。

岳は炭を足しながら、「出すだけじゃ、空気は回らない」と答えた。

岳は清掃記録の「戻した」という欄を、「開いた位置を確認した」へ書き換えた。動かした事実と、正しく戻った事実は別だからだ。

一巡目の注文が片付く頃、店主が予約表を持ってきた。二十時から団体客二十四人。串は百本を超える。

岳は開いたダンパーの位置へ白い線を引き、次の炭を起こした。