片道護送券を破る

深夜列車《月光号》には、途中下車できない騎士が乗っていた。

護送騎士バスティ。

胸の内側に黒い切符の呪印を持ち、指定された囚人を終着監獄まで運ぶ。囚人が逃げれば自分の脚を折り、誰かが奪えば相手を殺す。

車掌ルチカが検札に来たとき、囚人は高熱で倒れていた。

次の駅には治療院がある。だが降ろせば、バスティの呪印が「逃亡」と判断する。

「列車会社へ所有権を移せば命令を変更できる」

護送官は黒い切符を差し出した。

「車掌印を押せ。騎士は今後、鉄道の備品になる」

バスティは目を閉じた。

助けてくれとも、やめてくれとも言えない。所有権の相談中は発言を禁じられている。

ルチカは切符を裏返した。

小さな字で、払い戻し規定がある。

《運送契約が開始前に失効した場合、付帯する護送契約も消滅する》

列車はもう走っている。

普通なら使えない条項だ。

ルチカは非常ブレーキを引いた。

《月光号》が次の駅の手前で止まり、車輪が境界標の外側へ戻る。

「何をする!」

「列車が駅へ入る前なら、次区間の運送はまだ始まっていません」

彼女は黒い切符に鋏を入れた。

一度、二度、三度。

会社の車掌印ではなく、《全額払い戻し》の穴を開ける。

切符が紙吹雪になり、バスティの胸から黒い四角が剥がれた。

囚人を縛る錠も開く。

「治療院へ運んで」

ルチカは駅員へ頼み、それからバスティに言う。

「あなたはここで降りても、反対方向へ乗ってもいい。鉄道は追いません」

バスティはホームへ降りた。

列車の扉が閉じ、月光号が動き出す。

一両、二両とホームを離れたところで、最後尾の扉が開いた。

バスティが走って追いつき、手すりをつかんで乗り込んでくる。

ルチカが驚くと、彼は白い普通乗車券を差し出した。

「自分の金で買った。目的地は?」

「私は終点まで」

「では、客として同行する。その先で護衛を募集するなら応募したい」

ルチカは鋏を鳴らし、白い券に一つだけ穴を開けた。

その音は命令ではなく、自由な旅の始まりを告げる改札音だった。