猫砂を持ち上げる
涼架はペットを飼うなら最後まで計画を立てるべきだと思っている。妹の小夜は、出会ってしまったものは仕方ないと言う。雨の夜、小夜が連れて帰った子猫は、二人の価値観の真ん中で震えていた。
「里親を探す」
涼架はすぐに検索した。
「まず名前つけよう」
「名前をつけると手放せなくなる」
「名前がないと呼べない」
小夜はタオルで子猫を包み、涼架は段ボールにペットシーツを敷いた。口論は続いたが、手は止まらなかった。コンビニで買った小さなミルクを温め、動物病院の夜間番号をメモする。
翌日、病院で子猫は軽い脱水だと言われた。二週間は様子を見ること。涼架は費用を計算し、小夜はケージの値段を見て青ざめた。
「だから計画がいるって言った」
「じゃあ、見捨てればよかった?」
「そうは言ってない」
「姉ちゃんのそうは言ってない、便利すぎ」
二人は帰り道、ペット用品店に寄った。猫砂の袋は思ったより大きかった。小夜が抱えようとしてよろける。涼架は反射的に底を支えた。
「重い」
「だから宅配にすればよかった」
「今いるんだから今いる」
その言葉は強引で、少しだけ正しかった。涼架は袋の上を持ち、小夜は下を持った。二人で横断歩道を渡る。猫砂は十リットル。責任の重さを数字にすると、意外と持てる形になる。
部屋に戻ると、子猫は段ボールの中で小さく鳴いた。名前はまだつけない、と涼架は言った。小夜も反論しなかった。代わりに、二人は猫砂をトイレに入れた。ざらざらした音が部屋に広がる。
夜、涼架は里親募集の下書きを保存し、小夜は子猫の写真を一枚だけ撮った。二人の未来予想は違うまま、同じ段ボールの前にしゃがみ、ミルクの温度を手首で確かめた。
三日目、涼架は子猫を仮に「灰色」と呼び、小夜は「仮なら名前じゃないの」と笑った。結論はまだ出さなかった。夜中に鳴き声がすると、涼架が時計を見て、小夜がミルクを温めた。どちらかの衝動だけでは続かないことを、二人とも口にはしなかった。