現地の言葉で

莉子は企画書の隅に、毎回「原案・帆波」と書き足した。

私が消すと、次の版でまた戻す。会議前には現地ガイドとの通話を録音し、「言った、言わないを防ぐためです」とマイクを確認した。新人は責任を恐れて、名前を増やしたがる。

旅行会社で、企画を商品にするのは本社の仕事だ。島の案内人が話した思い出や寄り道を、そのまま並べてもツアーにはならない。私は順番を変え、料金を計算し、若い女性向けの言葉へ整えた。

海辺の集落を歩く新ツアーは、現地ガイドの帆波さんが送った案を土台にした。けれど彼女の文章は方言が多く、説明も長い。私は「潮待ちの一日」という名前をつけ、写真映えする三地点へ絞った。原案者名は、販売ページには不要だと判断した。

帆波さんから何度か電話が来たが、莉子に対応させた。現地の人は話が長い。商品が売れてから実績を見せれば、条件も素直に受け入れると思った。

実際、予約予告の反応はよかった。私はその画面だけを帆波さんへ送り、返事を待たずに会議資料へ進んだ。

商品会議で、莉子が完成案を自分の名前で説明した。

「この企画は私が担当します」

私の仕事を横取りしながら、帆波さんの名だけ残している。いい人に見られたいのだ。

「構成もタイトルも私が作った」

「契約は取りましたか」

「採用後に払えばいいでしょう」

「帆波さんは、無断掲載を断っています」

画面が切り替わり、現地から帆波さんが参加した。彼女は私へ案を送ったあと、使用料と同行条件を尋ねたが、私は「まず本社で形にしてあげます」と返信し、その後の連絡を止めていた。

私は説明した。地方の小さなガイドを全国へ紹介できる。宣伝になるのだから、最初から権利ばかり主張するのは損だ。莉子は現地の言い分を真に受けすぎている。

莉子が自分の担当として会議へ出したのは、販売承認を取るためではなく、契約のない企画を審査台へ載せて止めるためだった。商品化は保留になり、私の過去案件も確認されることになった。

最終ページの白い余白には、消したはずの「原案・帆波」が白文字で残っていた。