琥珀の中の命令

温室夜会の途中、伯爵令嬢が硝子室から救い出された。

「カエタナ様に閉じ込められました。殿下へ近づくなと脅されて……」

 婚約者アルカディオは、濡れた彼女を抱き寄せてカエタナを睨む。

「弱い者を虐げる女とは結婚できない。カエタナ・セルク、婚約を破棄する」

 硝子室は暖房が切られ、伯爵令嬢の肩には霜が付いていた。見世物としては申し分ない。だが救出された彼女は、鍵のありかを迷わず示し、アルカディオも警備を呼ぶ前から「カエタナの命令だ」と断定した。あまりに整った悲劇を前に、カエタナは怒鳴るより、使用人を虚偽の証言から守るため作った仕組みを思い出した。

 カエタナは反論を急がず、温室の鍵を見た。アルカディオは鍵を証拠品として掲げながら、琥珀の面を掌で隠している。仕組みを知らないのではない。知っているから、彼女が触れる前に裁きを終えたいのだ。鍵頭には、使用人への命令を記録する言葉琥珀が嵌め込まれている。侍女を守るため、彼女が全館へ導入したものだ。

「宮廷判事リゴベルト。鍵をこちらへ」

 リゴベルトは布越しに鍵を拾い、彼女の掌へ置いた。証言も推測も加えない。琥珀が保存するのは、その鍵が最後に回された直前、最も近くで発せられた命令一つだけである。

 カエタナが琥珀を光へ透かす。

『中へ入って待て。私が騒ぎを起こしたら、カエタナに閉じ込められたと言え』

 アルカディオの声が、温室と同じ反響を伴って広間へ響いた。

「彼女が勝手に意味を取り違えたのだ」

「命令は一語も曖昧ではありませんでした」

 王子は顔を歪め、結婚後の宮廷で敵を見抜けるか試しただけだ、合格だ、婚約は戻すと言った。

「人を罠へ落として試す方を、夫には選びません」

 カエタナは胸元の婚約鍵を外し、言葉琥珀と並べた。

「破棄を受諾します。今後は、命令されて黙る者ではなく、命令を裁く者になります」

 彼女は元婚約者に背を向けた。リゴベルトが、王都初の女性判事候補として法廷へ、と手を差し出す。カエタナは扉を開ける側を選び、その手を取った。