画面の外の買収

同窓会は、海外組をつないだオンライン併用だった。

三輪田亜美は大型画面に映った久須美環季を見て、すぐに笑った。

「加工、強すぎない? 環季ってそんな顔だったっけ」

画面の環季は白いシャツ姿で、短い髪と涼しい目元がよく似合っていた。中学時代、発表で言葉につまるたび、亜美は“読み込み中”と声を上げた。

「これは会社の会議室。加工は切ってるよ」

「海外勤務って聞いたけど、下請けのプログラマー? 私はIT専門の採用コンサル。業界の偉い人はだいたい知ってる」

亜美は年収と人脈を語り、環季にも転職先を紹介してあげると言った。

そのとき、画面の奥へ外国人の男性が入ってきた。世界最大手の通信企業のCEOだった。会場の誰もが知る顔に、亜美の声が止まる。

男性は環季の隣へ座り、日本語で挨拶した。

「本日の買収契約を記念して、同窓会へ一言だけ失礼します」

環季が大学時代に創業したAI企業を、彼の会社が二千億円で買収したばかりだった。環季は株式の過半を持ち、買収後も研究部門の最高責任者として残る。経済番組の速報が、同窓会会場の別画面にも流れ始めた。環季が手にする対価だけでも数百億円と報じられ、会場の誰かが思わず息をのんだ。

亜美は慌てて姿勢を正した。

「私、その会社の採用案件、ぜひ担当できます。環季、昔から仲良かったよね」

環季は少し考えた。

「採用会社の候補一覧には入ってたよ」

「本当?」

「昨日、外れた。応募者の容姿を社内チャットで採点していた記録が監査で見つかったから」

亜美の顔が固まる。画面共有には、通信企業のコンプライアンス審査結果が映り、彼女の会社名の横に〈取引不適格〉と表示されていた。

CEOが環季へ、買収契約の最終承認ボタンを譲る。

「久須美博士、お願いします」

環季はクリックする前に亜美を見た。

「読み込み、終わったみたい」

世界中の経済端末と同時に、画面へ〈買収完了・創業者保有分確定〉と表示される。加工だと笑われた顔の外側に、亜美には数え切れない桁の現実が現れた。