白い挽臼

 モンルー砦の風車は、粉がなくなってからも回り続けていた。

 石臼の下へ入れているのは白亜の欠片だ。硬い石が噛み合うたび、歯を削るような音がし、粉挽き小屋の床は冬の霜のように白くなった。挽けば白い粉になり、窓から吹き出す。城外から見れば、小麦を挽いているように見えた。

 粉挽きのギヨーム・セルクは、喉の奥まで石の味がした。

 守備兵二百。パンは今朝で尽きた。最後の一個は二百片に切れず、水へ崩して杯を回した。

 夕刻、包囲軍の騎士エティエンヌ・ボールが休戦旗を持って来た。

「風車を見せろ。小麦があるなら、来月まで待つ。なければ今夜攻める」

 砦代官は拒もうとしたが、ギヨームは扉を開けた。

 臼は白く、床にも粉が積もっている。だが小麦の甘い匂いはない。

 エティエンヌ・ボールは指へ粉をつけ、舐めた。

「石灰だ」

「白亜です」

「同じことだ。粉袋は空だな」

 ギヨームは答えなかった。

 敵に見破られれば今夜来る。砦の兵は一晩の戦にも耐えない。

 それでも彼は、見せることを選んだ。

 風車の丘の下には、敵が三日かけて掘った塹壕がある。昼からの雨で壁が緩み、夜半には崩れる。敵が待てば、朝には修理される。今夜、兵を詰め込ませる必要があった。

「なぜ黙っている」

 エティエンヌ・ボールが訊く。

「パン屋は粉のない臼を弁護しません」

「正直な男だ」

「腹が減ると、嘘は長く喋れない」

 使者は笑って帰った。

 砦代官がギヨームを殴った。石粉で乾いた口へ、鉄の味だけが戻った。唇が切れ、白亜の床へ血が落ちた。

「今夜来るぞ」

「来なければ、こちらが朝までに死にます」

「塹壕が崩れなければ」

「風車の羽根を燃やします。落ちた火で押します」

 雨が強くなった。風車の軸は粉もないのに軋み、空腹の砦でただ一つ、働いているふりを続けた。

 夜半前、敵兵が塹壕へ入り、梯子を担いで壁へ近づく。白い挽臼は空回りを続けた。

 やがて丘の土が低く唸り、塹壕の片側が崩れた。兵と梯子が泥へ埋まる。

 ギヨームは風車の制動縄を切った。羽根が風を受け、速く回る。

 代官が剣を抜いた。

 反撃を告げる青旗が、粉まみれの塔へ上がった。