白夜砦の最後の測定

白夜砦の北壁には、氷河より古い亀裂があった。

敵将ヴァネグはそこへ氷砲を集中させた。砦を落とすだけなら十分だったが、壁上に立つ斥候ロシュエを見て、出力を上げた。

彼女は三日前、単身で敵陣を抜け、援軍要請の灯火を上げた。そのせいで包囲は長引き、ヴァネグの功績は冬とともに消えかけている。

「灯台女を壁ごと埋めろ」

氷弾が亀裂へ入り、北壁が外側へ膨らんだ。次の瞬間、雪庇と城壁がまとめて崩れ、ロシュエの上へ白い山となって落ちる。

吹雪と石粉が視界を塞いだ。

敵兵は前進を始めたが、ヴァネグは手を上げた。

煙雪の中で、救援灯がまだ同じ高さに燃えている。

あの灯はロシュエが胸の前で掲げていた。壁ごと谷へ落ちたなら、火は消えるか、少なくとも位置が下がるはずだった。

風が煙雪を払う。

ロシュエは同じ姿勢で立っていた。両手で灯火を掲げ、片膝をわずかに曲げている。崩れた城壁と雪は彼女の周囲で凍った粉になり、火だけが青く揺れていた。

敵の古参砲手は、同じ氷砲で三つの城を落としてきた。石は割れ、人は凍り、灯火は必ず消えた。今回だけ違うなら、砲の不調ではなく標的が異常なのだ。しかも遠い雪原から援軍の角笛が返り始めた。ヴァネグには、確かめ直す時間さえ残されていなかった。

壁内の守兵も、彼女の灯を見て持ち場へ戻った。砦そのものは崩れても、撤退の合図だけは誰も受け取らなかった。

「耐寒結界だ」

「衝撃値も零です!」

測定兵の報告に、ヴァネグは怒鳴った。

「なら零度槍を使え!」

砲口が一本の透明な槍を作る。熱だけでなく運動まで凍らせ、当たった城門を衝撃の途中で砕く兵器だ。

槍がロシュエを貫き、氷霧が砦を包んだ。

それでも灯火は同じ高さにあった。

霧が晴れると、彼女は両手を掲げたまま、遠くの援軍へ合図を続けている。零度槍は胸元で霜になり、さらさらと落ちた。

測定兵の板には、防御換算の数字が無限に送り込まれていた。やがて板が音を上げ、文字だけを残す。

《対象防御値――測定不能》