白薔薇の罪
白薔薇を縫ったドレスは、他人の罪の証を染みとして吸い取り、着る者の罪に変える。その代わり、その人に優しくされた記憶を一つ奪う。
ルシエは審問室で、友人ヴェナの血のついた手袋を見つめていた。
王家の印章を盗んだ者は、手の甲に赤い印が浮かぶ。ヴェナの印は、手袋を越えてにじんでいる。夜明けまでに罪人が決まらなければ、工房の使用人全員が罰を受ける。
「私が盗んだ」
ヴェナは認めた。
彼女は印章を使い、ルシエの婚約契約を無効にしていた。相手は工房を手に入れるため彼女を妻にしようとしていた男だ。ルシエ自身が断れずにいたのを見かね、ヴェナが勝手に盗んだ。
ヴェナは使用人ではなく、同じ染め師だった。けれど身分の低い彼女が罪を負えば、弁明の場さえ与えられない。ルシエなら追放で済む可能性がある。その差を知っていたからこそ、ヴェナは何も相談しなかった。友情のために盗み、友情のために黙り、友情だから相手に罪を背負わせまいとしている。ルシエには、その優しさがひどく傲慢にも見えた。
「頼んでない」
「分かってる。だから私の罪」
手袋をドレスの胸へ押し当てれば、赤い印はルシエへ移る。代わりに、ヴェナの優しさを一つ忘れる。
寒い夜、同じ毛布を分けたこと。
失敗した染布を、朝まで一緒に洗ったこと。
婚約者に怒鳴られたあと、何も聞かず温かい茶を置いてくれたこと。
どれが消えるかは選べない。
審問官が扉を叩く。
「時間だ」
ヴェナは手袋を隠そうとした。ルシエは先に奪い、白薔薇へ押しつけた。
赤が花びらへ広がる。同時に、雨の夜の記憶が抜け落ちた。泣いていた自分の隣に誰が座っていたのか、温かい茶を誰が淹れたのか分からなくなる。
手袋から印が消え、ルシエの手の甲に赤い紋が浮かんだ。
「どうして」
ヴェナが震える。
ルシエにはもう、この人のために罪を引き受けた理由の一つがない。それでも、残った記憶まで失う前に答えた。
「あなたが勝手に私の人生を守ったから。今度は、私が勝手に守る」
扉が開く。
ルシエは染まった白薔薇を見せ、審問官の前へ一歩進んだ。