百枚の整理券
トレーディングカードの新弾発売日、木守谷湊絃は店の前で百枚の整理券を拾った。
すべて同じ番号だった。
少し離れた場所で、剣持野総一が子どもたちへ一枚千円で配っている。
「これを見せれば先に買える。買った箱は出口で俺に渡せ」
子どもを代理購入に使い、一人一箱の制限を抜けるつもりだった。整理券は店のロゴ入りで、一見本物に見える。
湊絃が店員へ知らせると、総一は笑った。
「番号が同じなのは家族枠。店員と話はついてる」
店長は本物の整理券を一枚取り出した。表面には肉眼では見えない紫外線印、裏面には受取時刻で変わる電子インクがある。総一の百枚は、SNSへ載った見本画像を印刷しただけだった。
子どもたちの保護者も集まり始める。保護者同士の連絡網には、総一が学校前でも同じ勧誘をしていた時刻と車両番号が共有されていた。誰か一人の思い違いではなかった。総一は“公式アルバイト”だと説明していたが、腕章も契約書もない。
さらに、出口で箱を買い取る金額は定価より安く、子どもには差額を報酬として払う約束だった。保護者の同意もなく、氏名と会員番号を書かせている。
商店街の警備員と警察官が来た。店は偽整理券を使った者を責めず、子どもたちへ事情を説明して千円を返すよう総一へ求めた。
総一はただの紙だと開き直った。
しかし偽整理券には店の商標と“優先購入権”の文字があり、金を取って配っている。店長は被害届を検討すると告げ、警察官が印刷データと集金袋を確認した。
通販サイトでは、総一が二百箱確保済みとして予約販売していた。店舗から通報が入り、商品なしの出品として口座が停止された。
本物の整理券が正規列へ配られる。
湊絃は最後尾に戻り、子どもたちも保護者と一緒に並び直した。店は混乱のお詫びとして、一枚ずつ無料の記念カードを配った。
総一の百枚が証拠袋へ入り、最初の本物へ紫外線の店印が浮かんだ瞬間、偽の“百番”は一枚も箱へ交換されず、正直に並び直した子どもだけが本物を手にした。