盆棚の空いた一段
航生は、母が再婚した家で、亡父の盆棚を組み立てていた。
母は買い物へ出ている。手伝うのは再婚相手の玄一だった。父の遺影を前に、二人で説明書を読む状況は、悪い冗談のようだった。
「この板、上下があるのか」
「溝が裏です」
「危ない。逆に付けるところだった」
玄一は父と同じ年だが、何も似ていない。父は細かく、玄一は大雑把。父は酒を飲まず、玄一は晩酌を欠かさない。母が三回忌のあと再婚すると言ったとき、航生は遺影ごと過去を片づけられる気がした。
盆棚は三段だった。一番上に位牌と遺影、二段目に果物、三段目に供物を置く。玄一は脚を支え、航生がねじを締めた。一本だけ長さが合わず、二人で床を這って予備のねじを探した。
「お父さん、こういうの得意だった?」
玄一が遺影へ目を向けずに聞いた。
「説明書を全部読んでから始める人でした」
「じゃあ、今ごろ呆れてるな」
玄一は笑い、航生も口元だけ緩めた。
組み上がった棚を仏間へ運ぶと、置く場所が狭かった。玄一の釣り道具が壁際を占領している。航生は何も言わなかったが、玄一は竿立てごと抱え、廊下の納戸へ移した。
「毎日使うわけじゃないから」
「盆棚も毎日じゃないです」
「戻すのが面倒なんだ。こっちはこのままでいい」
遺影の横には、半段ぶんの空きができた。玄一は自分の写真を置くわけでも、花を増やすわけでもなかった。そこへ航生が持ってきた父の腕時計を置いた。
母が帰るまで、二人で提灯を組み立てた。玄一はまた骨を逆に差し、航生が直した。
夕方、玄一は仏間の前に座布団を二枚敷いた。自分の分と航生の分。母の分は台所から持ってくればいいと言う。
「今夜、飲むか」
「父は飲まなかった」
「知ってる。だから俺と」
航生は断らず、父の好きだった枝豆を茹でた。塩は少なめにし、玄一の皿だけ後から足した。
帰る時刻を調べるためスマートフォンを開いたが、玄一が納戸から客用ではない布団を出してくるのが見えた。母が以前から取っておいた、航生の青い毛布だった。
遺影の隣は空いたままだった。その空き方なら、ここへ戻ってきても父の場所は減らない。