相性九十九%を拒否する
宇宙居住区エオスでは、相性解析が九十%を超えた二人は婚約を拒めない。ナユタの相手キリオは九十九%。祝福された組み合わせだと信じた彼女は、酸素配給権も居住権も共有設定にした。三年後、事故警報が鳴る中、キリオは彼女の酸素まで持って脱出し、婚約記録を一方的に削除した。
息が尽きたはずのナユタは、婚約端末の前へ戻っていた。
青いホログラムの指輪。中央AIの平坦な声も同じだ。
《相性九十九%。確定を押してください》
一度目は歓声の中で緑のボタンを押した。今度は指輪を指で払い、画面の隅を三度叩く。
「集計前の生データを表示して」
キリオが笑った。
「そんなもの、見ても分からないだろ」
前の人生で配給システムを修理するため、ナユタは解析式をすべて覚えた。隠し画面に並んだ数値を指で拡大する。
適合値は〇・九九ではない。〇・〇九九。表示欄から小数点が一つ消されている。
「本当は九・九%ね」
周囲の拍手が止まった。キリオは確定ボタンへ手を伸ばすが、ナユタが先に赤い拒否欄を押す。
《高適合者の拒否には処罰が――》
「高適合ではありません。監査コードE-17を申請します」
端末が赤く点滅した。このコードは、管理権限による相性改竄を自動通報する。前の人生でキリオの端末を修理したとき、彼が居住区長の権限を盗んでいたことを知った。
見物していた住民の端末にも、再計算された相性値が一斉に表示された。九十九%を理由に諦めていた拒否権が戻り、婚約待機列のあちこちで赤い取消ボタンが灯る。ナユタの拒絶は、彼女一人の記録では終わらなかった。
壁の扉が開き、保安員が入る。キリオの端末から、ナユタの酸素配給権を婚約成立と同時に移す予約命令が検出された。
「どうして分かった」
彼が初めて、甘い声を捨てた。
ナユタは答えず、共有設定をすべて解除する。青い指輪は砕け、彼女の市民情報が更新された。
前回は《配偶者従属区分》と表示された場所に、新しい文字が浮かぶ。
《独立居住権:承認》
《環境管制官候補:昇格審査開始》
九十九%の運命が消えた瞬間、ナユタの酸素残量は初めて百%になった。