神獣肉の白い脂
高級料理店《金獅子亭》の店主ガレスは、普通の豚肉を希少な神獣肉として売っていた。
「一皿二百金貨。食べれば寿命が延びる」
厨房見習いのネネアが仕入れ箱の《北農場産・白豚》という札を見つけると、ガレスは札を火へ投げた。
病弱な父へ食べさせたいと全財産を持ってきた娘にも、彼は同じ肉を売った。効かなかったと訴えられると、食べ方が悪いと門前払いし、その代金で店先に金の獅子像を建てた。
「客は味ではなく値段を食う。余計なことを言えば、お前が肉をすり替えたと触れ回るぞ」
ネネアは火の中から、半分だけ残った札を火箸で拾った。指先を焦がしても、産地と納品番号は読める。彼女は札を水へ浸し、焦げが広がらないよう布に包んだ。納品番号は帳簿の仕入れ欄とも一致していた。帳簿の品名だけが、ガレスの筆跡で《神獣》へ書き換えられている。その夜、王族の晩餐予約が入った。ガレスは豚肉を金の皿へ盛り、神獣狩猟証明書を作る。自分で《一角獅子、今朝討伐》と書き、料理人印を押した。
「これで王子も騙せる。骨は裏口から捨てろ」
ネネアは骨を捨てず、通常どおり仕入れ検品器へ通した。
晩餐で王子が一口食べる前に、王室鑑定官が現れた。ガレスはネネアが安い肉へ交換したと訴える。
鑑定官は皿の脂へ試薬を落とした。白く固まる脂は白豚特有で、神獣肉なら青く燃える。それでもガレスは、試薬が偽物だと笑った。
そこで検品器の記録が壁へ投影された。箱の産地、重量、仕入れ価格、そして検品時に近くで発された声まで保存されている。
――客は味ではなく値段を食う。
――これで王子も騙せる。
ガレスは、声は冗談だと言った。
王子は狩猟証明書を手に取る。今朝討伐されたと記された一角獅子は、十年前から王立保護区で一頭だけ飼育され、今も生きている。その虚偽を保証した料理人印は、ガレス本人のものだった。
王子は金の皿を置き、近衛隊長へ命じた。
「店主ガレス。王室詐欺罪による営業許可剥奪、ならびに逮捕を執行せよ」