祭りの募金箱

 夏祭りの片付けが始まると、子ども支援募金の封筒が一つ消えた。

 高校生ボランティア代表の半田駿介は、迷わず雪村佐知の鞄を指した。

「会計を一人で触っていたのは佐知です」

 鞄の内ポケットから、五万円入りの白い封筒が出た。

 佐知は昼から水も飲まず、募金券を数えていた。前年、支援先の児童館から届いた礼状を読んで、佐知は自分から会計へ立候補した。駿介は人前に出る仕事だけを選び、佐知が作った掲示物には自分の名を入れた。写真撮影になると彼女を幕の裏へ追いやり、終われば不足分だけ責任を負わせた。

 駿介は仲間と屋台を回り、彼女だけを倉庫番に残した。手伝いを頼むと、「友達がいない人は一人作業が向いてる」と笑った。

「盗っていません」

「じゃあ、どうして鞄にあるの?」

 駿介は周囲の大人へ、以前から佐知は暗くて金に執着していたと説明した。

 祭りの実行委員長は警察を呼ぶ前に、会計机へ佐知の集計表を広げた。

 今年から募金券には通し番号があり、千円以上の募金には控えを渡している。消えた封筒に入るはずの番号は三〇一から三五〇。だが佐知の鞄から出た札には、紫外線を当てると《予備金》の印が浮かんだ。

「これは募金ではない」

 委員長が言う。

 屋台の釣銭用に用意した予備金だった。保管庫から持ち出せるのは、実行委員長と高校生代表だけ。鍵の貸出簿には、十九時四分、半田駿介の署名がある。

 駿介の顔が固まった。

「佐知に頼まれて取りました」

 佐知は首を振る。

 会場には迷子対策の定点カメラがあった。映像には、佐知が集計表を本部へ届けた隙に、駿介が彼女の鞄へ封筒を押し込む姿が映っている。その直後、駿介は本物の募金封筒を自分の上着へ入れた。

 実行委員が駿介のロッカーを開ける。本物の封筒が、未開封のまま見つかった。

 委員長は、翌日の表彰式で駿介へ渡す予定だった地域貢献賞を破いた。

「警察と学校へ報告します。ボランティア代表は解任。残りの会計責任者は、最後まで番号を合わせた雪村佐知さんです」