私服の日だけ猫背じゃない

衣玖は、制服を着るといつも少し小さくなる。

大きめのカーディガンに手を隠し、廊下では壁側を歩く。授業で当てられると、答えは合っているのに最後だけ声が消える。

だから私服行動の朝、青いデニムジャケットでロビーに現れた彼女を、同じ班の全員が見つめた。

背中いっぱいに、色とりどりの星座が刺繍されていた。既製品のように整いすぎてはいない。オリオンの肩は少しずれ、蠍の尾には縫い直した跡がある。それでも、一針ごとに衣玖が選んだ色が、朝のロビーで制服より強く光っていた。

袖には小さな流れ星、胸元には北斗七星。衣玖は肩を引き、まっすぐ立っていた。

「どこで買ったの?」

聞かれると、彼女は背中を見せるように一回転した。

「作った」

夏休みから少しずつ縫ったらしい。糸の太さも、星の位置も自分で決めた。教室では一度も聞いたことがない速さで、刺繍の失敗や、指へ針を刺した回数まで話した。

出発前、普段ほとんど話さない子まで背中を見に来た。衣玖は最初こそ首をすくめたが、星の名前を尋ねられるたび姿勢が伸びた。褒め言葉を受け取る場所が顔ではなく、自分で作ったものだったからかもしれない。

班別行動中、道を尋ねる役はいつも別の誰かだった。けれどその日は、外国人観光客が衣玖の背中を指して声をかけてきた。彼女は覚えたての英語と身振りで説明し、最後にジャケットを褒められた。

「サンキュー」

声は消えなかった。

夕方、皆で撮った写真の中央に、衣玖がいた。星座の背中ではなく、正面を向いている。

旅行から戻れば、また制服だった。月曜日の衣玖は、大きなカーディガンに手を隠して登校した。ロビーで見た姿が夢だったように、背中も少し丸い。

けれど一時間目、先生に当てられた衣玖は、答えの最後まで声を落とさなかった。

休み時間、彼女の袖口から手が出た。カーディガンの端に、青い糸で小さな星が一つ縫いつけられていた。

誰にも見えないほど小さかったが、私は気づいた。

私服の日にだけ現れた星は、制服の中にも帰ってきていた。