空輸便第七号の軌跡

疫病薬を山岳都市へ届けた功績で、飛竜便ギルド長ドーヴァン・クロウは市民広場に立った。

「暴風を読み切り、私が最短路を飛びました」

喝采の中、若い騎手エルサナ・ピケは飛竜の影で手綱を握っていた。第七号便を操縦し、凍った峡谷を越えたのは彼女だ。ドーヴァンは帰還直後に飛行札を取り上げ、彼女を整備係だったことにした。

「見習いには荷が重い仕事でしたからね」

市長が、褒賞台の飛行鞍を示す。

「伝説の飛行を、市民にも見せていただきたい。軌跡札を開いてください」

ドーヴァンは笑った。飛行札には到着時刻だけが記録されると思い込んでいた。

「喜んで」

彼は自分のギルド印を軌跡札へ押した。

空に光の線が伸び、山岳都市までの航路を描く。風向き、翼角度、高度、騎手の姿勢が次々に表示された。

――騎手、エルサナ・ピケ。体重五十二。右手負傷後、左手操縦へ切替。

峡谷で雷を避ける瞬間、彼女の声も再生される。

『第七号、翼を畳んで。三つ数えたら上昇』

飛竜の咆哮と、薬箱を守るため鞍へ身体を縛る音。

一方、同じ時刻のドーヴァンの飛行札は、ギルド酒場の棚にあったことを示した。そこへ彼自身の声が重なる。

『帰ったら軌跡札を私に渡せ。見習いが飛んだと知られれば、ギルドの格が落ちる』

さらに帰還後の操作記録。

――使用者ドーヴァン・クロウ、騎手名の削除を三回試行。権限不足。

「私はギルド長だ。所属騎手の功績は組織の功績だ!」

ドーヴァンが怒鳴ると、エルサナの飛竜が低く唸った。彼女はその首を撫でるだけで、言い返さない。

市長は褒賞の銀翼章をエルサナへ渡し、航空監督官へうなずいた。

光の航路が広場の上で一周し、最後に薬箱を受け取った施療院の屋根へ降りた。助かった子どもたちが小さな紙翼を掲げる。その一枚一枚には、酒場にいたギルド長ではなく、《第七号騎手エルサナ》と書かれていた。

監督官が赤い封書を切る。

「ドーヴァン・クロウ。飛行記録窃取と功績詐称により、飛竜便ギルド長を解任し、全騎乗資格を失効する」