竜便封筒の三本線
山村へ届いた王家の冬季補助金通知は、どれも封が開き、中の金券だけが消えていた。
竜便局員ヨルン・カペルが領主館へ確認に行くと、ベルゴア・トラス侯爵は暖炉の前で金券の束を数えていた。
「文字も読めぬ農民に金を渡しても酒になる。私が管理してやる」
「受取人の許可なく王家郵便を開封することはできません」
「この領地で私に届かぬ手紙などない」
侯爵は机上の封筒を短剣で切り、最後の一枚から金券を抜いた。ヨルンへ空の通知を投げる。
「村には、今年は補助なしと伝えろ。口を滑らせれば、おまえの竜を射落とす」
ヨルンは郵便事故報告書を差し出した。
「では、領主による保管として署名をお願いします」
ベルゴアは〈全金券を侯爵家が代理受領。村民への交付不要〉と書き、印を押した。自分の権限を誇示するように、開封した封筒も報告書へ添付する。
封筒の切り口に、細い金線が三本浮かんだ。
竜便の王家封筒には、封を破った者の魔力と時刻を三本線で記録する仕組みがある。一本目は開封者、二本目は場所、三本目は封の内側にあった物。すべての封筒に、ベルゴアの魔力紋、領主館、補助金券という同じ記録が並んだ。
「局員が後から細工した!」
窓外で翼音が重なり、王立郵便監察隊の竜が中庭へ降りた。ヨルンは一週間前から、開封痕のある封筒を一通ずつ中央局へ転送していた。今日は現行犯を確認するため、最後の一通だけを持ってきたのだ。
監察官は暖炉脇の金券を照合した。券には受取人名と連番があり、村の名簿と一枚残らず一致する。侯爵家の会計簿には、金券を換金して新しい狩猟馬を買う予定まで記され、承認欄にはベルゴアの署名があった。
ヨルンは脅された竜の首を撫でる。竜は侯爵を見て一度だけ鼻を鳴らした。村から来た老人たちは、空だった封筒と戻った金券を一枚ずつ重ねた。
監察官が郵便法廷の黒封筒を開く。
「ベルゴア・トラス。王家郵便の不法開封、補助金横領および郵便職員への脅迫の容疑により、逮捕状を執行する」