竜祭壇に残した首輪

火山の国では、竜が目覚めるたび聖女を一人捧げた。

今年の供物は、竜血を引く聖女カリネ。喉には赤鉄の首輪があり、祭壇から離れれば心臓が止まる。王は「国を守る尊い役目」と呼んだが、契約板にはただ《王家所有の生贄》とあった。

竜狩りのオズリクは、討伐隊より先に祭壇へ着いた。

「助けに来たのですか」とカリネが尋ねる。

「竜を殺しに来た」

「なら私を置いてください。首輪が切れれば竜が完全に目覚めます」

地底から咆哮が響く。王の兵は遠くで門を閉じ、聖女と竜狩りをまとめて見捨てた。

オズリクは契約板を読んだ。

首輪を壊せば生贄の命が竜へ流れる。王家の印へ書き換えれば、竜狩り自身が新しい所有者になれる。

どちらも選ばず、彼は祭壇の石へ大剣を突き立てた。

「首輪ではなく、祭壇を壊す」

一撃目で石に亀裂が入る。二撃目で、契約板を支える竜骨が折れた。

三撃目。

祭壇そのものが崩れ、所有契約の文字が溶岩へ落ちる。赤鉄の首輪は力を失い、カリネの足元へ外れた。

同時に、山腹を破って黒竜が姿を現す。

「逃げろ」とオズリクは言った。

「命令ですか」

「忠告だ。聞かなくてもいい」

彼は一人で大剣を構えた。

カリネは自由な喉で息を吸い、反対側の斜面へ走った。オズリクは竜の炎を盾で受ける。王の兵は来ない。大剣の刃が熱で赤くなり、次の一撃には耐えられそうになかった。

その背後を、白金の光が追い越した。

カリネが戻り、祭壇に飾られていた竜槍を手にしていた。首輪の赤鉄を穂先へ巻き、自分の血で竜文字を描く。

「それを使えば、また生贄になるぞ」

「違います。これは私の血です。私が使い道を決めます」

竜槍がうなり、黒竜の炎を二つに割った。

「逃げられたのに」

「逃げました。山の出口まで」

「ならなぜ戻る」

「私を国の盾ではなく、一人の逃げる人として扱ったのは、あなたが初めてでした」

カリネは槍の石突きをオズリクへ差し出す。主従の礼ではなく、二人で長柄を支える持ち方だった。

「半分、持ってください」

「命令か?」

「共闘の申し出です」

二人の手が同じ槍へ並ぶ。

崩れた祭壇には空の首輪だけが残り、もう誰の命も竜へ差し出さなかった。