第二の鐘で終わった代理権
冬営軍の凱旋式で、兵士への給金が止まっていると告げられた。
トレヴィス王弟は、財務代理を務めたセルファーナ・ドゥセルを壇上へ呼ぶ。
「給金を留め、自家の軍備へ回したな。兵を飢えさせる女との婚約を破棄する」
疲れた兵士たちの怒りが、セルファーナへ向く。彼女は三か月、遅配を防いできた。それでも王族の一言は、百枚の正しい計算より強かった。
凱旋した兵の靴は泥で裂け、家族への土産を買う金もない。セルファーナは行軍中、毎晩帳簿を開き、戦死者の家へ先に給金が届くよう順番を変えた。兵たちはその名を知らない。彼女も知られようとはしなかった。
トレヴィスは今朝、代理印を返せと命じた。『戦が終われば女の計算は不要だ』と笑い、金庫を自分の側近へ渡した。午後になって給金が消え、夜には彼女を犯人として用意していた。時間だけが、彼の筋書きから漏れていた。
セルファーナはただ尋ねた。
「支払停止命令は、何時に発効しましたか」
「本日だ。時刻に意味はない」
「代理権にはございます」
近衛軍司令ダヴィドが、軍費管理を含む婚約契約を開いた。第八条には、セルファーナの代理権は凱旋日の第二の鐘で終了するとある。条文の時計印には、停止命令の時刻が刻まれていた。
『第三の鐘。権限者、トレヴィス』
彼女の代理権が終わった一時間後、王弟自身が給金を止めていた。
止めた金額は、翌日の王弟主催競馬の賞金と同額だった。兵士の誰かが、低く歯を鳴らした。
「国庫を守る一時措置だ!」
「ならば堂々と説明なさればよろしい。わたくしを盗人にする必要はありません」
兵士たちの怒りが方向を変えた。
トレヴィスは、婚約破棄は撤回する、今後も彼女を財務代理として使う、と当然のように言った。
セルファーナは指輪を第二の鐘の印へ置いた。
「わたくしの代理権も、あなたへの忠誠も、すでに終了しております」
元婚約者に背を向ける。ダヴィドが兵士たちの列へ降りる階段で手を差し出した。セルファーナは自分で一段を踏み、その手を取った。