終点の母娘
終点の遺失物窓口へ、母を捜す娘と、娘を捜す母が来た。
先に現れた娘は黄色いコートを着て、母が古い革鞄を列車に忘れたと訴えた。翌日、灰色の髪の母が濃紺の外套で訪れ、娘が同じ鞄を持ったまま消えたと言った。二人は互いを心配しながら、決して同時には来なかった。
係員が覚えていたのは、二人とも話す前に左の耳たぶへ触れたことだった。もう一つ、乗車券を見せる指には、星形に欠けた古い切符が挟まれていた。母娘で同じお守りを持っているのだろう、と係員は考えた。
革鞄は終点のロッカーに預けられていた。鍵は娘が持ち、暗証番号は母しか知らないという。二人の立ち会いが必要なため、係員は日を決めて呼び出した。しかし当日、娘から「母が先に着く」と電話があり、母からは「娘が遅れる」と連絡が入った。
係員は善意から、二人の伝言を一冊のノートに書き留めていた。娘は「母は数字を逆から読む」と言い、母は「娘は鍵を左の靴に隠す」と教えた。二人が協力すればロッカーを開けられる。だが情報を合わせていたのは係員で、そのノートを毎回、窓口の同じ位置へ開いたまま置いていた。
娘も母も、話の途中で必ず時計ではなく駅名標を見た。化粧室から戻る時刻を測るため、秒針より発車案内の切り替わりを使っていたのだ。
私は駅員として、ホーム側と改札側のカメラを同時に確認した。黄色いコートの娘が化粧室へ入り、八分後、濃紺の外套を着た母が出てくる。顔は年齢が違って見えるが、左耳の後ろに同じ三日月形の傷があった。
ロッカーを開けようとした母を止めると、彼女は娘の高い声で抗議した。鞄の中には、別の駅で盗まれた宝飾品が詰まっていた。母の身分証で受け取り、娘の証言で盗品ではないと主張する計画だった。
係員は二人分の申請書を並べた。筆跡は崩してあるが、句点だけが同じ小さな星形だった。
母は白髪の鬘を外し、黄色いコートを鞄から引き出した。
「娘は来ませんよ。母を捜していますから」
終点で互いを捜していた母と娘は、すれ違っていたのではない。一人が、二つの入口から同じロッカーへ近づいていた。