終電の向かい席

十年前、転職面接へ向かう電車に乗り遅れた。

駅前で、紙袋から蜜柑をぶちまけた人を手伝ったからだ。

面接には遅刻し、不採用。その人とは後に友人になり、今では二人で果物サンドの店をしている。

店の経営が苦しくなるたび、私は思う。

あの蜜柑をまたいで電車へ乗っていれば、もっとましな人生だったのではないか。

仕入れ帰りの終電で、向かいの席が空いていた。

暗い窓へ目をやると、そこに、あの電車へ間に合った私が座っていた。

高そうなスーツに、疲れた顔。

彼女もこちらを見て驚いた。

声は届かないので、私はスマートフォンへ打った。

「面接、受かった?」

向こうの私は画面を見せた。

「受かった。部長。胃薬が友達」

私は笑い、店の制服を指した。

彼女は首をかしげる。

「何の仕事?」

「蜜柑のせいで始めた店」

「蜜柑、大嫌い」

「一日八十個むくと慣れる」

向こうの車内には、誰もいなかった。

彼女の連絡先一覧には、仕事の名前ばかり並び、家族の欄は空白だった。

こちらの鞄には、共同経営者が作った失敗作のサンドが入っている。クリームが多すぎて、蓋が閉まらない。

私はそれを窓へ掲げた。

向こうの私は、ひどい形だと指で示しながら、少し羨ましそうに笑った。

彼女も鞄から表彰状を出した。

私は拍手した。

どちらも相手の持ち物を欲しがりながら、自分のものを完全には手放したくない顔をしていた。

次の駅が近づき、窓の像が薄くなる。

最後に彼女が画面へ打った。

「助けた人、いい人?」

私は考えた。

遅刻癖があり、計算が苦手で、クリームを入れすぎる。

それでも閉店後、売れ残りを児童施設へ届けるのを一度も忘れない人だ。

「かなり面倒。かなり大事」

向こうの私はうなずき、表彰状の裏へ何かを書き始めた。

読める前に駅へ着き、窓は私だけを映した。

店へ戻ると、共同経営者が帳簿の上で寝ていた。

横には「明日から蜜柑増量」と書いた紙がある。

「赤字なのに?」

起こすと、「酸っぱいときほど甘いものが要る」と意味不明な答えが返った。

私は失敗作を半分に切った。

終電に乗れなかった人生は、予定よりずっと手が汚れる。

それでも向かいの席が空いているより、二人でクリームを拭く夜の方を、私は選び直したかった。