緑のランプを点けたまま
灯里の部屋には、緑色のランプがある。
丸い傘に白い花が描かれ、明かりを点けると古い喫茶店のようになる。蚤の市で見つけたものだった。
元恋人は初めて部屋へ来た日に言った。
「物の選び方が全部ばらばら。こういう趣味、生活感がありすぎて落ち着かない」
彼が来る前にはランプを押し入れへ入れ、柄物のクッションを裏返した。別れても、誰かを招くたび同じ片づけをした。自分の部屋なのに、内見用の写真みたいな空間を作った。
日曜の夕方、友人が借りていた本を返しに来ることになった。滞在は十分ほどの予定だった。
灯里は床を掃き、テーブルの郵便物をまとめた。次に緑のランプへ手を伸ばした。押し入れには、隠すための空き場所がある。
コードを抜きかけて、やめた。
ランプは点いたままにした。花柄のクッションも裏返さなかった。
チャイムが鳴り、友人が紙袋を持って入った。灯里はランプの感想を待ってしまった。かわいいと言われれば安心できるし、何も言われなければ不安になる。
友人は本をテーブルへ置き、雨が強くなる前に帰ると言った。ランプには触れず、冷蔵庫にあった炭酸水を半分飲んだだけだった。
友人がいた十分間、話題は返した本の結末と、駅前のパン屋の閉店時間だけだった。灯里は何度か自分からランプの由来を説明しそうになった。先に「変でしょう」と笑えば傷つかずに済む。けれど説明も自嘲もせず、炭酸水の空き缶を受け取った。緑の花柄は、話題にならないまま二人の横にあった。
玄関で見送り、扉を閉める。
灯里はすぐ部屋へ戻り、友人の視線を思い返した。花柄を見ていた気もする。心の中で変だと思った可能性もある。
いつもなら、次の来客に備えてランプをしまうところだった。
灯里は押し入れを開けず、ソファに座った。
緑の明かりは、部屋を洗練させもしなければ、灯里のセンスを証明もしなかった。ただ読みかけの本と空のグラスを、少し黄みがかった色で照らした。
夜になっても、灯里はコードを抜かなかった。