線香花火の順番

大きな花火が終わったあと、僕らは河原に残った。

クラスの連中は駅へ向かい、屋台も片づけを始めている。彼女は巾着から線香花火を一束出した。

「持ち込み禁止じゃない?」

「水も持ってる」

用意がよすぎた。

僕らは土手の下でしゃがみ、一本ずつ火をつけた。遠くの会場では、撤収の放送が流れている。

彼女の火はすぐ落ちた。

「下手」

「花火に上手いも下手もない」

「持ち方」

僕は自分の線香花火を少し傾けて見せた。小さな火の玉から、細い光が四方へ飛ぶ。

「好きな人いる?」

彼女が急に聞いた。

僕の火も落ちた。

「今のは質問のせい」

「いるんだ」

「そっちは」

「いる」

彼女は新しい一本へ火を移した。

大きな花火なら、返事を音に隠せた。けれど線香花火は静かだった。火薬のはぜる小さな音まで聞こえる。

「誰」

「先に言って」

「ずるい」

「じゃんけん」

僕らは火を持っていない手でじゃんけんをした。僕が負けた。

名前を言う代わりに、彼女を見る。

彼女は意味が分からないふりをして、線香花火へ目を落とした。

「言わないの」

「見れば分かるだろ」

「分からない」

火の玉が大きくなり、落ちそうに揺れた。

僕は息を止めた。

「君」

口にした瞬間、彼女の線香花火が落ちた。

暗くなる。

彼女は何も言わなかった。

やはり聞かなければよかったと思ったとき、彼女が束から最後の二本を出した。

「順番、次は私」

一本を僕へ渡す。

同時に火をつけた。二つの光が並んだ。

「私も君」

声は小さかったが、消す花火はもうなかった。

僕らは火が落ちるまで、顔を見なかった。見ればどちらかが笑い、手元が揺れそうだった。

最後の火の玉は、ほとんど同時に土へ落ちた。

帰り道、彼女は人のいない河原で手を差し出した。

「人混み、もうないけど」

「知ってる」

僕は握った。

大きな花火より短く、線香花火より長い沈黙が続いた。

新学期、誰にも話さなかった。けれど掃除当番で火ばさみを持つたび、彼女と目が合った。

僕らだけが、最後の一本の順番を覚えていた。