聖鐘は嘘を覚えない

聖誕夜会の鐘が鳴る前、イヴェルナ・モランジュは偽聖女と断じられた。

「君は神殿の祝福を盗んだ」

 第一王子マクシオンは、白衣のメルティアを隣に立たせて告げる。

「本物の聖女は彼女だ。君はその力を自分のものと偽り、王家との婚約を得た。よって婚約を破棄する」

 メルティアは慈悲深げに手を組んだ。

「イヴェルナ様を責めないでください。聖女になりたい気持ちは、分かりますから」

 イヴェルナは胸の聖印を外した。怒りも涙も見せず、白い布の上へ置く。

「告発は、わたくしが祝福を偽ったという一点ですね」

「自白する気か」

「鐘に決めていただきます」

 大聖監察官クレドが、閉ざされていた聖鐘の前へ立った。彼は王子にも聖女候補にも礼をせず、一本の綱を握る。

 聖鐘は祝福の源を一度だけ映す。真の祝福を持つ者が近くにいれば金色、奪った力なら赤、誰にもなければ無色の音を放つ。

 クレドが綱を引いた。

 澄んだ音が広間を満たし、金の光がイヴェルナの足元へ降りた。

 メルティアの周囲には、何も落ちなかった。

「聖鐘は嘘を覚えぬ」とクレドが言った。「覚えるのは、人がついた嘘だけだ」

 メルティアの唇が震える。

「鐘が壊れているのです」とマクシオンが言った。

「神の声を、都合が悪くなった途端に故障と呼ばれますか」とクレドは綱を放した。余韻だけが長く残り、王子の言葉を小さくした。

 マクシオンはすぐに態度を変えた。

「イヴェルナ、神も君を認めた。ならば婚約破棄は撤回し、予定どおり王妃に」

「神が認めたから戻すのですか」

 彼女は聖印を拾わなかった。あれは王家が聖女を所有するために与えた印で、祝福そのものではない。金の光は、印のない彼女の足元に今も残っていた。

「わたくしが何を言っても信じなかった方の隣で、神の証明だけを頼りに生きるつもりはありません」

 クレドが手を差し出す。

「北巡礼路では、鐘の届かぬ村が祝福を待っている。王子の許可も、豪華な聖印もいらぬ場所だ。聖女という名ではなく、あなた自身の名で行くか」

 イヴェルナは王子に背を向け、クレドの手を取った。