自分の葬式に遅刻した
比良坂透子は、自分の葬式に七分遅刻した。
アップロード手術の直後、肉体の心停止が確認され、家族は予定どおり告別式を開いた。ところが透子の意識起動には時間がかかり、接続できたときには弔辞が始まっていた。
「故人は、いつも周囲を明るくする人でした」
部長が言った。透子は職場で一度も冗談を言ったことがない。
「姉はお金に頓着のない人で」
妹が言った。三年前に貸した三十万円をまだ返していない。
元恋人は「最後まで僕だけを愛していた」と泣いた。別れた理由は、彼の浮気だった。
透子は式場の画面へ割り込もうとした。
《死亡者による発言は、遺族の悲嘆を妨げるため制限されています》
コメント欄へ「それは違う」と打っても、自動的に白い花の絵文字へ変換された。
腹を立てていた透子は、やがて笑い始めた。全員が嘘をついているのに、その嘘の中では自分がずいぶん立派だった。生前は他人の評価を気にして、嫌われない返事ばかり選んだ。その結果、誰も本当の彼女を弔えなかったのだ。
式の終盤、母だけが棺へ向かって言った。
「この子はね、冷蔵庫のプリンに名前を書いても人のを食べました」
会場に小さな笑いが起きた。
「でも食べたあと、必ずもっと高いのを買ってきた。謝るのが下手だったから」
透子は笑うのをやめ、泣いた。
葬式の翌日、参列者たちは気まずそうに面会へ来た。透子は部長へ、明るい人ではなかったと告げた。妹には返済計画を作らせ、元恋人には二度と来るなと言った。皆、死者が反論するとは思っていなかった。
その経験をもとに、透子は新しい仕事を始めた。
《本人同席型・生前葬リハーサル》
依頼人は棺の横に座り、自分について語られる言葉を聞く。嘘があれば訂正し、謝りたいことがあればその場で謝る。葬式より口論になることが多かったが、後日、本当に亡くなったときの弔辞は短く正確になった。
透子は永遠に生きるようになってから、好かれる努力をやめた。
代わりに、まだ返事ができるうちに本当のことを言う人になった。