航路を失った星間港の三つの灯
航宙士イーレンの座標入力ミスで、輸送船は予定軌道を七光時も外れた。
積荷の生体薬は半分が期限切れになり、会社は彼女の免許を凍結した。後に航路標識の改竄が疑われたが、責任者は「新人の見落とし」で処理した。
最後の私物を取りに星間港へ戻ると、三つのドッキング灯が彼女を呼んだ。
巡視艦長ジャスパーは、操舵認証キーをイーレンへ渡した。
「次の哨戒で副航宙士を頼む。進路変更権も含めて預ける」
学術船の主任メイファは、観測席から端末を一台撤去し、隣を空けた。
「未知航路の解析班に来ない? あなたの目が必要よ」
自由交易船主グライスは、発着許可を延長し続けていた。
「どちらも嫌なら私の船で好きな星へ行こう。燃料は君の返事が出るまで持つ」
三人に囲まれたとき、港の管制塔が緊急訓練を始めた。イーレンにも模擬船の誘導が命じられる。
彼女は凍結された免許証を見た。前の船では、失敗後に私物端末から母港登録まで消されていた。だから三隻の灯が同時に自分へ向く光景を、まだ信じきれない。喉の奥で、返事だけが無重力のように浮いた。
彼女は座標を確認し、短距離跳躍を指示した。
直後、模擬船が予定地点から大きく逸れ、警報が鳴る。モニターに赤い「航路逸脱」の文字。
まただ。
イーレンは認証キーを机へ置いた。
「皆さんの船を失わせる前に、勧誘を取り消してください。私は座標を信用できない」
三人が一斉に席を立つ。
見捨てられると思った直後、ジャスパーは管制卓へ認証キーを差し込み、メイファは観測データを開き、グライスは自船のビーコンを非常中継へ切り替えた。
「君の入力は合っている」とジャスパー。
「港の重力時計が十二秒遅れている」とメイファ。
「だから前の輸送船も標識より先へ飛ばされたんだ」とグライス。
三つの船から同期信号が送られ、模擬船は正しい地点へ戻った。
訓練終了後も、三人は発着手続きをしなかった。
操舵キー、空いた観測席、燃料を満たした交易船。どれを選んでも彼女の帰還座標を登録するという。
凍結された免許証しか持たないイーレンの端末に、三隻分の「母港設定」が同時に灯った。