荷物は軽い方から

「荷物は軽い方から積みます」

隊商付きの侍女ラティカは、朝になると荷車の前でそう言った。

衣装箱、食料樽、帳簿鞄。重さを量って紐を掛け、崩れない順に積み上げる。若い商会主ベリルは、雇い主である自分より荷物の方を大切に扱う彼女へ、よく冗談を言った。

「俺も荷台へ積んでくれれば、楽に峠を越せるのにな」

その日の峠で、道標の陰から一人の男が現れた。

他の護衛は先の落石を調べに行き、荷車のそばにはベリルとラティカだけ。男は山賊ではない。王都の商会を三つ潰した暗殺請負人《値切り屋》だった。

「商会主の命、金貨百枚で買った」

男が細剣を抜く。

ベリルが荷箱の陰へ下がった時、ラティカは荷締め紐を引いた。

きゅっ、と結び目が鳴る。

次に顔を上げると、道に男はいなかった。

風が吹き、乾いた草が揺れる。

ラティカは何事もなかったように衣装箱の位置を直している。

半開きの箱の真鍮飾りにだけ、先ほどの一瞬が映っていた。

ラティカは伸びた細剣を荷締め紐で絡め、ひと引きで男の重心、呼吸、意識を同時に奪った。倒れる前に身体を丸め、空だった長櫃へ収め、紐を十字に掛ける。敵一人を荷造りするまで、箱が一度揺れただけだった。

その結び方をベリルは知っている。

大陸中の王侯へ「死」を小包で届けた伝説の暗殺者《荷札なし》。受取人以外、誰も中身を見ることはなかったという。

ラティカは男の足跡を箒草で払い、落ちた細剣を長櫃へ入れた。蓋に「破損品・王都衛兵詰所行き」の札を貼る。殺さず引き渡すらしい。請負札だけを抜き取り、火口箱で燃やした。

「お前、何者なんだ」

ベリルが尋ねる。

「商会付き侍女です」

「侍女は暗殺者を荷造りしない」

「荷崩れの原因は、先に片づけます」

護衛たちの声が近づいてきた。

ラティカは長櫃の上へ毛布を掛け、他の箱と同じ顔にする。戻った者は新しい荷物が一つ増えたことにも気づかなかった。

隊商が動き出す。

ベリルは彼女の隣を歩きながら、二度と荷物扱いしてくれとは言わないと心に誓った。

ラティカは最後の小鞄を持ち上げ、最初と同じ調子で告げる。

「荷物は軽い方から積みます」