落ちる月を安全に荷下ろし

石運びタマラは、王立採石場で一番小柄だった。

大岩を担げないため、運搬記録と縄の点検ばかり任される。監督は彼女を見るたび、「その技能で月でも運べたら給金を出してやる」と笑った。

技能の文面は、石切場から外へ出ることを想定していない。

【職業技能《安全荷下ろし》:自分へ運搬を正式に任された石一つを、指定地点へ損傷なく下ろす。】

ある夜、本当に月が落ちてきた。

正確には、月の三分の一が砕け、白い巨岩となって王国へ向かっている。宮廷天文学者は衝突まで三十分と告げた。結界は大きさを測っただけで砕け、転移魔法には対象が重すぎる。

王は地下避難所へ逃げる前、恐怖を隠すためタマラを指さした。

「石運びなのだろう。あの石を王都から遠くへ運んでみせよ」

貴族たちは乾いた笑いを上げた。

だが命令は、宮廷書記が記録し、王印まで押した。

正式な運搬依頼だった。

タマラの技能欄に、荷札が現れる。

品名――月隕石、一個。

荷下ろし指定地点――西方無人砂漠。

「承りました」

彼女は採石場で使う誘導縄を、空へ向けて投げた。細い縄の先が雲を越え、落下する月の欠片へ結ばれる。

タマラは力任せに引かなかった。重い石ほど、揺らさず、軌道を読み、置く場所へ導く。それが荷役の技術だ。

王都を直撃する白い巨岩が、彼女の手の動きに合わせてゆっくり西へ曲がる。空は昼のように明るいが、衝撃波は起きない。運搬中の荷を損傷させない技能は、荷の下にある町も傷つけなかった。

やがて西の地平線に、白い半月が静かに沈む。砂漠へ置かれた巨岩は砂粒一つ跳ねさせず止まった。

王都に戻った月明かりの下、監督が膝をつく。

タマラは王へ手を差し出した。

「運搬費と、未払いの給金をお願いします」

翌朝、砂漠に置かれた月石から澄んだ水が湧いた。周辺の乾いた村々は新しい湖を囲み、最初の荷札を記念碑にした。王は月石を国有財産と宣言しようとしたが、依頼書には荷受人の欄が空白だった。タマラはそこへ、砂漠の全村名を小さな字で書き込んだ。

【職業《石運び》が上位職《星辰荷役神》へ書き換わりました。】