薬草門の秤

黒森の入口には、薬草を採る者から銀貨一枚を取る門があった。

 一枚は熟練採取人なら払える。だが見習いには一週間分の稼ぎだ。門税を払えない若者は危険な抜け道を使い、森の魔獣に襲われた。結果、町の薬草は不足し、熱病の薬まで値上がりした。

 森番長ガランは、負傷した見習いを背負って戻ると、門の錠を外した。

「入る時には取らない。採れて、売れた時だけだ」

 彼が薬師組合と決めた税は、売却額の十分の一。

 自家用の薬草、治療所へ無償で渡す分、採れなかった日は零。組合の秤で買い取り額を量り、採取人、薬師、森番の三枚の札に同じ数字を書く。税収は森道の結界石と救難笛にだけ使う。

 熟練採取人の一人が不満を漏らした。

「俺は高価な霊草を見つける。門税より多く取られる」

「利益も多い。率は見習いと同じです」

「見習いが群生地を荒らすぞ」

「採取量ではなく売却額に課すだけでは足りません。根を残した品には買値を一割上乗せする、と薬師組合が提案しています」

 税と買値が同じ方向を向いた。買値表も毎朝掲げられ、薬師が見習いだけを安く買いたたくことはできない。森を荒らせば一度だけ儲かり、残せば毎年儲かる。

 翌週、門を通る見習いが増えた。ガランは案内人を雇う予算がまだないと告げたが、熟練採取人が二人、自分から先頭に立った。

「税が増えるのに、教えるのか」

 見習いが恐る恐る聞く。

「お前が死ねば、救難笛の税まで無駄になる」

 熟練者はぶっきらぼうに答え、毒草と薬草の違いを教えた。

 薬師は税板を見て、結界石があと二つ買えると知ると、代金を前払いした。誰も命令されていない。採取人が帰ってこそ、秤も薬棚も動くと分かっていた。

 月末、森道の最後の結界石が据えられた。

 熱病から回復した子どもが、見習いだった兄と一緒に門を通る。兄の籠には根を残して摘んだ薬草が少しだけ入っていた。

 風が吹くと、結界石の銀鈴が澄んで鳴る。

 門の横の秤には、新しい文字が彫られていた。

『空の籠からは取らない。満ちた籠の一割で、帰り道を守る』

 二人は抜け道ではなく、明るい正門から町へ帰った。