裏切りの旗を味方の号令に
辺境軍の符号係グリッドは、旗を読むだけの臆病者と蔑まれていた。
槍を持たず、丘の上で布の色と角度を記録する。将軍ザハールは「戦は文字遊びではない」と彼の報告を握り潰した。
【固有スキル《符号翻訳》:一つの符号体系で示された情報を、別の符号体系へ同時に置き換える】
決戦の朝、敵軍は谷へ退くふりをした。将軍は追撃を命じる。
グリッドには、敵の赤旗が《中央を誘い込め》、青旗が《左右から塞げ》と読めていた。さらに将軍の肩から垂れる金房が、風とは逆へ三度揺れた。
それも敵軍の旗語だった。
《味方の門を正午に開く》
「将軍は敵と通じています!」
「符号係が英雄を侮辱するか」
将軍はグリッドを斬ろうとし、全軍へ追撃太鼓を鳴らさせた。
敵の伏兵が左右の崖に姿を現す。正面の城門では、将軍の部下が閂へ手をかけた。
グリッドは翻訳先を王国軍の角笛に指定した。
敵旗の《包囲を閉じろ》が、味方の笛では《左右の崖へ一斉射撃》に対応する。敵が旗を振るたび、こちらの角笛が最適な迎撃命令として鳴った。
伏兵は姿を見せた瞬間に矢を浴び、斜面を転げ落ちる。
次にグリッドは、自分の手指で王国の撤退符号を結んだ。スキルはそれを敵旗語へ同時翻訳し、空中に巨大な光旗を作る。
《後方より王国援軍。全軍退却せよ》
敵の中央軍が混乱して背を向けた。城門を開けかけた裏切り者たちは、戻ってきた味方に取り押さえられる。
将軍の金房も、証拠として空中へ翻訳されたままだった。兵士全員が意味を知り、彼の命令にはもう誰も従わない。
捕らえられた将軍は、金房はただの飾りだと言い張った。グリッドがその房の揺れを王国文字へ翻訳すると、《城門を売る対価、金貨三万》という契約番号まで空中へ現れる。敵陣から押収した密書の番号と一致した。
兵たちは将軍の指揮杖を折り、丘上のグリッドへ新しい合図を求める。彼は逃げる敵の背へ矢を浴びせず、捕虜救出の旗を出した。文字遊びだと笑われた符号一つで、味方の命だけでなく敵に連れ去られた村人まで戻ってくる。
グリッドが丘から追撃停止の合図を出すと、職業札が軍旗より明るく輝いた。
【職業《軍符号係》が上位職《戦符統訳将》へ書き換わりました】