裏返しの背番号
怪我をした選手は、復帰戦を怖がっていた。
治ったと医師は言う。
監督も仲間も、
「お前ならできる」
と励ます。
失敗すれば、待ってくれた全員を裏切る気がした。
更衣室でユニフォームを裏返しに掛けたまま眠ると、同じ姿の選手が現れた。
背番号を裏返した者の代役は、試合終了までその人として出場する。
本物は観客席の端へ座った。
代役は迷いなく走り、最初のシュートを決めた。
仲間と笑い、観客の拍手を受ける。
怪我をする前より上手に見えた。
本物は安堵し、すぐ空しくなった。
自分の席へ、自分より優れた選手が入った。
もう戻る理由がない。
後半、代役が転倒した。
すぐ立ち上がる。
本物の体なら一瞬、怪我した足をかばうはずだった。
ベンチの仲間が顔を見合わせた。
「違うな」
控え選手が言った。
「あいつなら、転んだあと笑ってごまかす」
「それ、悪い癖だろ」
「悪いけど、あいつだって分かる」
代役は得点を重ねた。
それでもチームの呼吸が少しずつ合わなくなった。
完璧に動くため、仲間が失敗する前に球を奪い、自分で決めてしまう。
終了五分前、本物は更衣室へ走り、裏返しのユニフォームを表へ戻した。
代役がフィールドから消え、本物がその場所へ現れた。
観客は気づかない。
仲間だけが、
「遅い」
と笑った。
本物は最初の球を取り損ねた。
次の走りでは足が怖くなり、速度を落とした。
控え選手が横へ入り、球を拾う。
「一人で戻るな」
と短く言った。
試合は引き分けた。
代役の得点で勝てたかもしれない。
本物は悔しかったが、最後まで自分の足で立った。
試合後、監督は成功した得点より、最後の五分について尋ねた。
本物は怖かったと正直に言い、次戦の出場時間を自分から短く希望した。
仲間は失望せず、その時間に合わせた作戦を考えた。
復帰後も先発の座は保証されなかった。
体調を伝え、控えから出る日も受け入れた。
仲間も「大丈夫か」と一度聞き、本人の答えを待った。
裏返しの背番号は、完璧な自分を試合へ出せる。
けれどチームが待っていたのは、失敗し、かばわれ、次の球を誰かへ渡せる本人だった。