裾に縫われた包囲陣
針子レヴァは討伐隊の外套を預かり、ほつれた裾へ銀糸を縫い込んだ。
「飾りはいらない。裂け目だけ塞げ」
大魔術師オーデンは、彼女の仮寄与率2%を見て作業代まで削った。標的は霧喰い鬼。魔法陣へ閉じ込めなければ、霧となって逃げる怪物だった。
森で鬼を見つけると、術師たちは地面へ封印陣を描いた。だが怪物は完成前に霧へ変わり、線の外へ抜ける。何度描き直しても同じだった。
レヴァは外套の裾をつまんだ。
「皆さん、囲んでください」
「針子が指図するな」
それでも負傷者を守ろうと、隊員たちは自然に円を作った。レヴァは自分の外套から銀糸を引く。
すると全員の裾が淡く光った。
別々に見えた補修糸は、隊員が円形に並ぶと互いを探して伸び、空中で輪になる。地面に描く陣と違い、動く人間そのものが封印線になった。
霧喰い鬼が隙間へ逃げようとする。隊員が足を動かせば、銀糸の輪も動く。怪物はどこへ流れても輪の内側から出られない。
「中心へ寄って」
レヴァが糸を巻き取ると、包囲陣が縮んだ。霧は圧縮され、鬼の身体へ戻る。実体化した胸へ、オーデンの火球が命中した。
帰還後、大魔術師は「移動式封印術を即興で完成させた」と報告した。レヴァの名は衣装修繕欄にしかなかった。
戦果盤が外套を順番に読み込む。銀糸の魔力はどれもレヴァの指先から始まり、討伐中ずっと途切れず輪を保っていた。オーデンの封印陣は、完成した記録すらない。
彼が「糸など誰でも縫える」と言うと、受付官が針を差し出した。
オーデンは受け取れなかった。針穴より細い銀糸が、ひとりでにレヴァの指へ戻ったからだ。
討伐隊の者たちは、レヴァを中心に自然と円を作った。外套の裾が触れ合い、銀糸が細く鳴る。オーデンが中央へ入ろうとしても輪は開かず、今度は彼だけが包囲の外から新しい指揮官を見上げた。
銀糸の輪の内側に立てるかどうかが、新しい隊列の基準になった。
【再算定完了】
【レヴァ・討伐寄与率:2% → 95%】
【隊内順位:最下位 → 首位】
【役職更新:針子 → 移動結界長】