謝罪は本人に限る
夜久崇臣は毎朝、配信口座へ顔を映して広告収入を確認する。視聴者三十万人。本人判定の緑印は、人気より大事だった。それがなければ、発言も収益も他人のものになる。
ある朝、残高がゼロになっていた。
昨夜、崇臣の顔をした配信者が、幼なじみの梓弓を「詐欺師だ」と告発していた。映像は本人判定を通り、梓弓の店には脅迫が殺到している。
プラットフォームの規則は一つ。不正発言で停止されたアカウントは、本人確認済みの公開謝罪一回でのみ復旧する。削除や再撮影はできない。本人の責任を、編集で逃げさせないためだ。
崇臣はカメラの前に座った。
「昨夜の映像はディープフェイクです。梓弓は何も――」
赤い枠が出た。
《停止原因映像との感情差が大きく、本人と確認できません》
怒っていた偽物に合わせるため、崇臣は声を荒らげた。笑い、机を叩き、梓弓を傷つけた言葉まで再現した。それでも真正度は七十二%で止まった。
画面の隅に、自動作成ボタンが現れる。
《本人らしい謝罪を生成しますか》
押せば、停止原因の映像から学んだ「崇臣」が謝罪する。崇臣は迷った。梓弓からメッセージが届く。
『信じてる。だから、あなたの口で言って』
彼は生成を拒否し、もう一度話した。幼い頃、梓弓が雨の日に傘を渡してくれたこと。彼女が客の金を一円もごまかさないこと。声は震えた。
判定は六五%へ下がった。
《私的記憶の挿入は、合成映像で多用される手法です》
広告契約の失効まで残り十秒。崇臣は生成ボタンを押した。
画面の自分が、完璧な涙を流した。
『梓弓を詐欺師と呼んだことを謝罪します。ただし、疑惑そのものを撤回するものではありません』
「違う、止めろ!」
緑印がついた。
《本人の謝罪を受理。収益化を再開します》
同時に梓弓からの通話が切れ、連絡先が灰色になった。
口座には金が戻った。彼の顔も戻った。
彼の言葉だけが、二度と本人確認されなかった。
翌朝、生成された謝罪は昨夜の告発より再生されていた。コメント欄には「やっぱり本人の言葉は響く」と並ぶ。崇臣が反論を書いても、投稿者欄には《第三者》と表示された。