赤い封筒

赤い封筒を見つけたのは、妹の汐里が眠ったあとだった。

差出人は地方裁判所。母がまた何か申し立てたのだと思った。逃げて三年になるのに、あの人は手紙と制度を使って私たちを縛ろうとする。

汐里は郵便物を見ると過呼吸を起こす。だから、この家に届く封筒は私が先に開ける。重要な書類には私が署名し、必要のないものは見せずに処分する。それが姉の役目だ。母から届いた謝罪文も、就職先からの採用通知も、汐里を揺らすと判断したものは先に読んだ。採用通知は環境が変わる危険を避けるため、辞退の返事まで出した。

ただ、その封筒には二つ妙な点があった。宛名は汐里だけで、私の名がない。裏面には〈本人開封〉と朱書きされ、糊の上に裁判所の割印まで押されていた。

私はやかんの蒸気で封をはがした。

中には、接近禁止命令の審尋期日が書かれていた。母が汐里へ近づけないよう、誰かが手続きを進めてくれたのだと安堵した。ところが申立人は汐里本人になっている。妹が一人で裁判所へ行けるはずがない。外出予定は私が把握し、交通費も必要な分だけ渡している。誰かが妹を利用し、私から引き離そうとしているとしか思えなかった。

翌朝、私は遠回しに尋ねた。

「最近、支援員さんと何か書類を書いた?」

汐里の箸が止まった。

「郵便、来た?」

「何も」

私が答えると、妹は初めて私の顔をまっすぐ見た。

その日の夕方、汐里は帰らなかった。支援員から電話があり、妹の居場所は本人の希望で教えられない、今後は連絡を控えてほしいと言われた。

私は赤い封筒を燃やした。母が支援員まで操ったのだ。火の中で、書類の端が一瞬だけ開いた。

〈相手方 綾芽〉

見間違いに決まっている。私は灰を水で流し、汐里の部屋を片づけた。机の引き出しには、開封されていない手紙が十七通あった。どれも私が処分したはずのものだった。汐里は、ごみ袋から拾い、しわを伸ばして隠していたのだ。

夜、汐里へ長いメッセージを送った。

〈お母さんに何を吹き込まれても、私はあなたを見捨てない〉

送信できなかったので、翌朝、裁判所の前で待つことにした。