赤札一枚の釘箱

城壁修理は、釘があるのに止まっていた。

倉庫には釘が三万本もある。だが梁留め用の長釘だけが毎朝なくなり、鍛冶場へ急使を出してから届くまで二刻、百人の大工が腕を組んで待つ。鍛冶場は不足を恐れて短釘ばかり大量に打ち、倉庫の山だけが高くなった。

補給係の塔野巴留は、長釘を二つの箱へ千本ずつ分けた。手前の箱の底には赤札を一枚置く。

「札が見えたら、これを鍛冶場へ運んでください」

棟梁は「子どもの遊びだ」と笑ったが、作業を再開させた。

午前の途中、手前の箱が空になり、赤札が現れた。少年が札を鍛冶場へ走らせる。大工たちは奥の二箱目を開け、その千本を使い続けた。

鍛冶場では札に描かれた長釘だけを千本打った。短釘の山には触れない。二箱目が空になる三十分前、満杯の一箱が荷車で届いた。

槌音は一度も止まらなかった。

前日は待ち時間だけで二刻半を失い、梁を二十本しか留められなかった。今日は夕鐘までに三十五本。余った長釘は千本ではなく、使いかけの一箱だけだった。

三日目、別区画で蝶番が切れかけた。巴留は釘の仕組みを増やさず、蝶番も二箱へ分け、底の札へ《五十枚》と書いた。最初の箱が空くと札だけが鍛冶場へ走り、残る箱で作業が続く。補給係は全倉庫を数えず、届いた札の品だけを作ればよかった。

一週間の停止時間は、十四刻から零。急ぎ仕事で割増しを払った回数も九回から一回へ減った。倉庫の総在庫は三万本から一万二千本へ縮んだのに、必要な長釘が作業台から消えた瞬間は一度もない。

大工たちは赤札が出るたび叫んでいた補給係を探さず、槌を振り続けた。城壁の完成予定日は、帳面の上で十二日早く書き換えられた。

翌朝も赤札が往復し、鍛冶場は必要な種類だけを打つ。三万本あった在庫総数は減ったのに、作業速度は一・七倍へ上がった。

棟梁は赤札を指先で裏返した。そこには《長釘・千本》とだけ書かれている。

「城壁全区画に二箱ずつ置け。札の行き先も巴留が決める」

工事総監が補給官章を巴留の胸へ留めた。

「釘を数える者ではない。槌を止めない者として採用する」