返却箱の栞
百目鬼佳乃は、図書館六館を巡る午後便の途中で、市立中央館から電話を受けた。山間分館の利用者が半年待った郷土資料が、通い箱に入っていないという。閉館まで一時間。今日を逃せば、次の便は三日後だった。
佳乃は車を止め、回収した箱を開けた。中央館から山間分館へ向かう便札の箱には、児童書だけが入っている。封は切られていない。司書は「積み忘れだろう」と言ったが、佳乃は中央館へ戻らなかった。
郷土資料は大型本で、通常の箱には平らに入らない。発送担当は背を上にして入れるはずだ。佳乃は車内の通い箱を横から見た。一つだけ、ふたが数ミリ浮いている。便札には「南町館」とある。
開けると、大型本が背を上にして収まり、その隙間に子どもの紙の栞が挟まっていた。箱番号は「六一」。山間分館行きの記録は「一九」。手書きの数字を逆さに読んだ誤仕分けだった。
新人は便札を貼り替えようとした。
「箱ごと山間へ持っていけばいいですよね」
佳乃は止めた。南町館行きの本も同じ箱に入っている。丸ごと動かせば、別の予約が遅れる。彼女は中央館の司書に連絡し、内容物の移し替え許可を取り、郷土資料だけを正しい箱へ移した。栞は資料の付属物ではないため、児童書へ戻す。誰かが返却時に挟んだままなのだろう。
山間分館へ着いたのは閉館五分前だった。待っていた老人は本を両手で受け取り、表紙を撫でた。
「父の村が載っているんです」
佳乃は貸出票を確認し、箱番号の件は口にしなかった。
中央館には、箱番号を直すだけでなく、手書き数字を使わないよう伝えた。便札の紙が足りない日だけ古い札の裏を使う習慣が、今回の逆読みを生んでいた。佳乃は破棄予定の札を集め、次の巡回で各館へ同じ印刷様式を配ることにした。
帰りの車には、六館分の返却本が積まれた。彼女は「六一」と「一九」の便札を新しく印刷し、数字の下に館名を太字で足した。次の便で同じ向きに箱を置いても、もう逆さには読めない。
老人の指は、貸出期限の紙を丁寧に折った。