返品できない指輪

睦月は、別れた恋人にもらった指輪をレシートの上に置いた。

返品期限はとっくに過ぎ、内側には二人だけの言葉が彫られている。

宝飾店で働く由布は、溶かして別の形にできると言った。

「思い出を再利用するみたいで嫌」

「素材は金。思い出は加工対象じゃない」

「由布は何でも値段で見る」

「値段が分かると、選択肢が増える」

睦月は指輪を捨てたい。由布は、捨てるには価値が高すぎると言う。二人は買取店の個室で、査定結果を待った。

提示額は二万六千四百円。共同口座に残った最後の電気料金と、解約手数料を払えば、ほとんど消える金額だった。

「売るためにもらったんじゃない」

「返したい?」

「返したら、向こうが得する」

「持っていたら?」

「私が困る」

由布は答えを出さず、査定票を睦月の前へ戻した。

店員が席を外したあと、睦月は指輪をもう一度はめた。少し緩い。付き合っていた頃、むくみに合わせて大きめを選んだのだ。

由布は似合うとも、外せとも言わない。代わりに共同口座の請求画面を開き、必要額を電卓へ打った。

二万六千九十円。

差額は三百十円だった。

彫り文字を消す加工も提案されたが、睦月は断った。消した痕まで持ち帰る必要はないと思った。

睦月は売却同意書へ署名した。由布は本人確認書類のコピーがずれないよう、端を押さえた。

現金を受け取ると、その場で料金を支払った。画面に「精算済み」と表示される。

残った三百十円を見て、睦月は笑いそうになった。

「愛の値段、安いね」

「金の重さと相場の値段」

「そういうところ、嫌い」

「知ってる」

駅のロッカーに、元恋人へ返す最後の荷物を入れた。使用料は三百円。由布が十円足すと言ったが、睦月は断り、残金から払った。

硬貨が一枚だけ手のひらに残る。

睦月はそれを募金箱へ入れようとし、由布は「用途を選んで」と止めた。最後まで考え方は違う。

二人は駅の案内所で、落とし物の寄付先を確認した。小さな募金箱を選び、睦月が硬貨を入れ、由布がふたを押さえた。

指輪のあった指には、何も残らなかった。