遅延理由審査部

鉄道会社の社員が私用で予定に遅れた場合、遅延理由審査部へ不足した分数を申告する。理由を一文で書き、社員証を封筒へ入れて翌朝まで待つ。認められた分数は透明な玉になって返り、月末までに使わなければならない。玉を机の時計へ入れると、その場にいる者だけが一分長く話せる。

審査部の部屋は駅にも本社にもなかったが、遅刻届の提出先には必ず記載されていた。

運行管理の保科は、時間を守ることだけが取り柄だった。父が倒れた夜も、ダイヤ乱れの復旧を優先した。病院へ着いたのは十一分遅く、父はその十一分前に亡くなっていた。

遅れの理由を申告しようとすると、上司は首を振った。

「死者との面会は予定に含まれない」

それが規程だった。保科も納得したふりをした。

一年後、父の一周忌の日に大雨で列車が止まった。保科は指令室を離れられず、寺へ十一分遅れた。今度は法要という予定があったため、申告できた。

〈運転再開を優先し、父の一周忌に十一分遅れた〉

翌朝、封筒には透明な玉が十一個入っていた。中で秒針のような黒い線が回っている。

月末まで残り二日。保科は使い道を考えた。会議を延ばすほどの議題はない。別れた恋人へ電話する理由もない。父と疎遠だった妹とは、一周忌でもほとんど話さなかった。

最終日の夜、妹から電話が来た。実家を売るので、父の工具をどうするかという事務的な相談だった。保科は机の時計へ玉を一つ入れた。

通話の表示は一分で止まり、室内の時計も秒針を止めた。電話の向こうだけ、妹の息が続いた。

「お父さん、最後に兄ちゃんの電車の音を聞いてた」

保科は次の玉を入れた。妹は、父が病室で時刻表を枕元へ置いていたこと、十一分おきに窓を見たことを話した。保科は何も言えず、玉を一つずつ使った。

十個目で妹は泣き、十一個目で笑った。

「工具箱、半分ずつにしよう」

通話が終わると午前零時を過ぎていた。すべて使ったはずなのに、時計の中に透明な玉が一個残っている。規則では余った分数は審査部へ返却する。

保科が玉を封筒へ戻すと、中から父の古い腕時計が転がり出た。針は病院へ着いた時刻の十一分前で止まっている。

秒針の代わりに、透明な玉が文字盤の縁をゆっくり転がった。耳へ近づけると、一周するたび、遠い踏切が一度だけ鳴った。