鉛入りの象牙駒
二列の戦象のあいだに、低い盤が置かれていた。
ラジヴ・セーンは盤上の象牙駒を見た。歩兵を模した白い駒が一つ。これを指で弾き、倒れた向きの側から人質を歩かせる。それが敵将デーヴァの提案だった。
こちらが取り戻すのは妹アヌパ。敵へ返すのは、デーヴァの象軍師。交換後、先に人質を受け取った側は、相手が戻るまで象を動かさない。
順番は命に関わる。先に象軍師が敵陣へ着けば、デーヴァは約束を破り、象を突進させるだろう。アヌパは中央で踏み潰される。
「客人に弾かせよう」とデーヴァが言った。
ラジヴは駒を摘まんだ。見た目より重い。底の片側だけが冷たく、白い象牙の中に鉛が埋められている。
どちらから弾いても、鉛の側へ倒れる。敵陣を指すよう作られた賭けだった。
「運に任せるのが怖いか」とデーヴァが笑う。
「運なら怖くない。職人が怖い」
ラジヴは駒を盤の角へ打ちつけた。象牙が割れ、灰色の鉛片が転がった。
象たちが鼻を鳴らす。敵兵の槍が下がった。
「交換の証を壊したな」とデーヴァが言う。
「証ではない。重りだ」
「おまえが入れたのかもしれぬ」
「なら残りの駒も割れ」
盤の脇には同じ組の駒が十五個並んでいる。デーヴァは動かなかった。全部へ鉛を仕込んでいなければ、比較されて嘘が割れる。全部へ仕込んでいれば、さらに悪い。
アヌパは敵の象脚の前で、縄を掛けられていた。頬に乾いた血がある。それでも兄を見て、ほんの少し顎を上げた。賭けを拒めという合図だった。
ラジヴは鉛片を盤の中央へ置いた。
「順番はなしだ。同時に歩かせる」
「断れば?」
「象軍師を返さず、夜明けに北堤を切る。泥になった平原で、象がどれほど走れるか試せ」
デーヴァの象軍は乾いた地でこそ強い。北堤の水は、両軍の足を奪うが、重い象をより深く沈める。
敵将は象軍師を見た。老いた男は首を振った。自分一人のために象軍を泥へ入れるなという顔だった。
「同時だ」とデーヴァが言った。
二人の人質の縄が切られる。
アヌパと象軍師は盤を挟んで歩き、鉛片の横ですれ違った。戦象の鼻が頭上で揺れる。どちらの側も一歩早く動けば、象使いの鉤が振り下ろされる。
アヌパが味方の列へ入る。象軍師も敵の列へ入る。二人が同時に土を踏んだ。
デーヴァは約束どおり象を動かさなかった。動かせば、鉛の駒による欺きまで全軍に認めることになる。
ラジヴは割れた象牙を拾い、鉛だけを盤へ残した。
城壁の象門で、鎖が鳴る。
「象を膝伏せさせろ」
命令が渡り、巨体が左右へ沈んで帰還路を開いた。