錆びた鎖帷子

ミケロンは鎖帷子を樫の棒へ吊した。

錆びた輪が触れ合い、痩せた兵の行軍より大きな音を立てる。港塞を捨てる千人のうち、鎧を着られる者は三百しかいない。残りは負傷者、船大工、書記、家族だった。

「これを兵に見せるのですか」

水路番の少年ニコが訊いた。

「音だけだ。霧は人間より働く」

海霧が旧街道を覆っている。ミケロンは二十頭の騾馬の両脇へ鎖帷子を吊し、盾を背負わせた。遠くから見れば、槍を立てた重装歩兵の列。追うヴァシル軍は、港塞の精鋭が北道へ退くと考える。

実際の退却路は、南の古い送水渠だった。狭いが、砦の裏門まで続いている。

「騾馬を引く者が要ります」

ニコが棒の結び目を確かめる。

「途中で縄を切る。餌袋を先へ置けば、勝手に歩く」

「最初の百歩は?」

ミケロンは答えなかった。

少年は十四。父を攻城戦で失い、母を荷車に乗せている。ここへ残す理由はなかった。

「俺が引く」

「将軍の鎧だけ、音が違います」

ニコは一領を指した。金の縁が残る古い鎖帷子。ミケロンが若い頃、皇帝から賜ったものだ。敵の斥候は、その音までは知らない。だが霧の中で金が光れば、将軍が囮列にいると信じる。

ミケロンは自分の鎧を脱ぎ、騾馬へ掛けた。

「これで将軍は北へ行く」

「あなたは?」

「水路を知る老兵だ」

二十頭が旧街道へ出た。ミケロンが先頭の手綱を引き、ニコは最後尾の縄を持った。鎖の音が霧へ膨らみ、百人、二百人の軍列に聞こえる。

敵の角笛が北へ流れた。霧の向こうで、追撃の蹄が鎖音へ吸い寄せられていく。

「もう切れます」とニコ。

「おまえが先に戻れ」

「母に、将軍を連れて帰ると言いました」

ミケロンは少年の頬を殴った。倒れたニコを水路兵へ投げ渡し、縄を切る。騾馬は餌の匂いを追って霧の奥へ進んだ。ミケロンだけが歩調を合わせる。

まもなく敵の騎兵が鎖音を包囲した。罵声のあと、錆びた輪へ槍が突き刺さる音が続く。

南の送水渠では最後の民が抜けた。ニコの叫びが石壁に反響する。

港砦の裏で、退却隊を迎える小門が開いた。