鍛冶町の静かな壁

鉄工町グラナでは、夜遅くまで槌音が続いた。鍛冶屋は夜に届く急ぎの注文で稼ぎ、住民は眠れない。苦情が出るたび「町を支える仕事だ」と押し切られ、赤子のいる家から人が去っていた。

町書記フェルンは、鍛冶場を閉める代わりに、工房街と住宅街の間へ粘土と羊毛の防音壁を造る案を掲げた。

費用は工房の広さでも主人の財産でもない。日没後に槌を振るう一刻につき銅貨二枚。昼だけ働く工房は負担なし。夜仕事をやめた日もゼロ。徴収額は工房ごとの砂時計札で公開し、防音壁が完成すれば半額、維持費だけになれば四分の一へ自動で下げる。

鍛冶組合長カヴァは机を叩いた。

「夜に働く者への罰金ではないか」

「罰なら、完成しても下げません。これは夜の音を夜のうちに壁へ返す費用です」

住民側にも負担を求めなかった。だが羊飼いは余った毛を持ち込み、陶工は粘土を焼かずに練り、赤子の父親は仕事明けに型枠を組んだ。鍛冶屋たちも、税が営業時間を奪うものではないと分かると、鉄の留め具を無償で打った。

壁の中央には小さな窓があり、緊急時だけ工房街と住宅街で合図を送れる。閉ざすためではなく、音だけを分ける壁だった。

壁が半分できた時点で、住民は両側に立って音を試した。工房側で槌を三度、住宅側で皿を一度鳴らす。聞こえた回数を札へ書き、羊毛を足す場所を決めた。試験に参加した時間は鍛冶屋の税から引かず、町の共同作業として記録した。料金を払う側にも、眠る側にも設計を独占させなかったため、壁は苦情の印ではなく双方の道具になった。

完成初夜、カヴァはいつもどおり大槌を振り下ろした。工房側では火花と轟音が弾ける。住宅側には、遠い雨ほどの響きしか届かなかった。

窓の向こうで、若い母親が眠った赤子を抱き上げ、親指を立てた。カヴァは二度目の槌を、少し誇らしげに振るった。

翌朝、壁の窓枠に札が掛けられた。

――働く火は消さない。眠る灯も消さない。

その下で、夜勤明けの鍛冶屋と目覚めた子どもが初めて同時にあくびをした。