鎧を脱いだ小指

《その強化外骨格が本体でしょ》

《中の人は普通、装備メーカーの宣伝》

《桐谷万里、鎧なしじゃ荷物も持てなさそう》

桐谷万里は、黒い全身鎧の留め具を外した。

胸、腕、脚。重い装甲を一枚ずつ床へ置き、最後には薄い探索服だけになる。監査員が鎧の電源を切り、遠くへ運んだ。

さらにメーカー技師が動力核を抜き、透明ケースへ封印する。万里の身体に残った補助接続も、その場で一本ずつ外された。

ボス部屋の奥から、城塞鬼が現れる。身長二十メートル。両腕に岩山を固めた巨槌を持ち、歩くだけで床が沈む。

万里は小指を立てた。

「鎧は私を強くするためじゃない。迷宮を壊しすぎないための重しだよ」

城塞鬼が巨槌を振り下ろす。

万里は避けず、小指一本を槌の底へ添えた。

轟音が消える。

巨槌は空中で止まり、鬼の両足だけが反動で床へめり込んだ。万里が小指を軽く返す。城塞鬼の巨体が槌ごと天井近くまで浮き、回転しながらボス部屋の中央へ落ちた。一撃で討伐判定の光が広がる。

《鎧、画面奥で監査員が抱えてる》

《補助魔法の反応なし》

《二万八千トンを小指で受けて投げた?》

《床への荷重が途中で消えてる。力を全部鬼側へ返したのか》

《外骨格が本体どころか、出力制限器だった》

万里は床の鎧を拾い、また身体へ取りつけ始める。

「装備メーカーさんには感謝してる。これがないと、ドアノブを何度も買い直すことになるから」

過去配信で彼女が鎧を脱がなかった理由が、別の意味に変わる。装備企業の公式担当もコメント欄へ現れた。

《弊社製品の増幅機能は未搭載です》

《用途は衝撃吸収および筋力制限》

《契約書を公開しました。“使用者から周辺設備を守ること”》

《広告だったのは事実。ただし守られてたのは視聴者側だった》

迷宮装備協会が、鎧の分類をその場で修正する。

【旧分類:高出力強化外骨格】

【新分類:特級探索者用・環境保護拘束具】

切り抜き動画の題名も変わった。

『鎧頼みの怪力女』から、『鎧を脱いだら迷宮がもたない』へ。